第30話 私に任せておきたまえ
さて。
レースが随分と白熱したせいで忘れかけていたが、優勝を目指したのは学院長に直訴して進級させてもらうことだった。
表彰式で学院長から直々に景品や賞状を貰った際、俺は隙を見て訊ねた。
「セカンドグレードに進級させてくれ」
「いいだろう」
あっさり認められた。
「それにしても入学初年度で優勝するとは。飛行魔法はどこで習ったのだ?」
「いや、学院に来てからだが」
「ははは、そんなはずはあるまい」
一笑されてしまった。
本当なんだけどな。
これで赤、青、緑と三つの学院でセカンドグレードに進級することができた。
そもそもグレード制度自体が崩壊している黒の学院を除くと、後は黄と白だけだ。
実を言うと、黄の学院についてはすでに当てがあった。
黄の学院では、定期的に発表会なるものが行われている。
一日目の第一部ではファーストグレードの生徒たち(ただし希望者のみ)が、二日目の第二部ではセカンドグレードの生徒たちが、三日目の第三部ではトップグレードの研究生たちが、成果の発表を行うことになっていた。
そして最終日は教員による研究発表である。
この発表会で優秀な成績を修めた生徒は、進級が認められることがあるという。
俺が狙うのはそれだ。
とういわけでレースが終了した現在、俺は二週間後の発表会に向けて準備を進めていた。
前にも説明したが、黄魔法は大きく分けて土魔法と錬金魔法の二種類がある。
土魔法を専門とする者は、いかに上手く土を操作できるようになったかを実演するタイプの発表がほとんどらしい。
一方の錬金魔法は、その場ですぐ見せられるタイプのものではないため、基本的には成果物を提示しつつ研究内容を報告するという形で発表を行うそうだ。
俺はいわゆる〝ゴーレム〟について発表するつもりなのだが……その両方に当てはまっている気がする。
一般的にゴーレムは土魔法の分野に属しており、人の代わりに肉体労働をさせたり、戦闘時に敵陣に突っ込ませたりと、色々な場面で使われている。
だが所詮は土で生み出された人形であり、術者が魔力を解くとすぐに崩れて土に戻ってしまう。
それに魔力の消耗が激しく、長時間の使用は難しい。
俺はそうしたゴーレムの弱点を改善する方法を思いついたのだ。
それはゴーレムを錬金魔法で生み出した金属によって作り出す、というアイデアである。
アイデアの発端は、剣の都市のダンジョンにいたあのリビングアーマーだ。
あれは金属製の鎧が動いており、しかもゴーレムと違って半永久的にあの姿を維持し続けていた。
それと似たようなゴーレムを作ることはできないだろうかと思ったのだ。
俺はまず、ゴーレムの身体となる金属を作り出すことから始めた。
理想としては強くて軽い金属が良い。
そうすればゴーレムは機敏に動けて、しかも注ぐ魔力量を抑えることができる。
「ふむ。こんなところか?」
思考錯誤の末、錬金魔法で作り出した金属は、まずまずの出来だった。
鋼よりずっと軽いのに、強度は鋼を凌駕している。
それでも俺が思いきり力を入れると曲がってしまうので、まだまだ改善の余地はありそうだが、とりあえず自重を支えられるだけの強度はあるだろう。
当然ながら一つの塊から手足を作っても、動くことはできない。
なので幾つかのパーツに分けて、それらを組み合わせることにした。
要は人間の骨と同じだ。
そして各所に関節を設けておけば、その部分を動かすことで飛んだり走ったりといったことができるようになるはず。
そうして試作第一号として、人間と同じ形状をした金属製ゴーレムができあがった。
「……むう。バランスを取らせるのが難しいな」
立っているだけなら良いが、歩かせると途端に怪しくなった。
それに動きが非常にぎこちない。
関節部からはギイギイと耳障りな音が聞こえてくる。
ガシャン!
挙句、スッ転んでしまった。
「ふむ。もうちょっと滑らかに動けるようにしないとな」
やがてあっという間に二週間が経った。
「よし、準備は完璧だ。あとは発表するだけだな」
と、そこで俺はある重大な失態に気づいてしまう。
「……参加登録を忘れていた」
どうやら熱中し過ぎたらしい。
俺は慌てて発表会の運営事務局へと乗り込んだ。
「難しいです」
事務局の人に一蹴された。
「それでなくとも第一部は人数も多く、日程が詰まっていますので、今から飛び入りでの参加などとても受け入れられません。次回の発表会をお待ちください」
「そこを何とかならないか? 第二部でもいい」
「第二部も人数が多いため同じことです」
「じゃあ第三部はどうだ?」
「……ファーストグレードの生徒が第三部で発表を行おうなど、さすがに烏滸がましいかと」
怒らせてしまったようだ。
「せっかく今まで誰も思いつかなかった最新型のゴーレムを作ったのにな……」
「それは誰も思いつかなかったのではなく、思いついたけれどやる意味がないと判断しただけでは?」
酷い言い様だ。
「どうした? 何かあったのか?」
そこへ割り込んできた人物がいた。
随分と体格の良い中年男性だ。
顔つきも厳つく、魔法使いというより、どこかの国の兵士長という感じである。
だがその割に、子供のような無邪気な笑みを浮かべている。
「ログウェル先生」
どうやらこの学院の教員らしい。
まぁ年齢から言ってその可能性が高いだろうと思ってはいたが。
「実はですね……」
事務員の話を聞いたログウェルは、「なるほど、なるほど」と大袈裟に頷いて、
「いいだろう! この私に任せておきたまえ!」
胸を叩いて、そう豪快に叫んだのだった。
何とかできるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます