第12話 全然迷ってないですよね

 ミラを探して十一階層に降りた俺だったが、そこでこの階層以降は地図がないことを思い出した。

 さすがにこれでは時間がかかり過ぎる。


「さっきのパーティの中に《盗賊》っぽいのがいたな」


 そう思って、俺は急いで先ほどの場所に戻ると、幸いまだ彼女たちはそこにいた。


「ど、どうされました?」

「もしかして職業は《盗賊》か」

「え? あ、はい、そうです」


《盗賊》は探索能力に長けた【基本職】だ。

 戦闘スキルこそ乏しいものの、ダンジョン探索には必須の存在と言える。


「ならちょうどいい。一緒に来てくれ」

「え?」


 俺一人で探すより、ずっと効率がいいはずだ。

 戦闘では足手まといになっても、一人くらいなら護りながらでも戦えるだろう。


 俺は彼女を抱え、走り出す。


「えええええええええええええええええええっ!?」


 そして再び十一階層へと降りてきた。


「ここから地図がないのを思い出したんだ。《盗賊》ならマッピングもできるだろ?」

「で、できますけど……できますけどぉ……」

「けど?」

「い、いえ……」


 なぜか涙目になっているが、ミラのためにも我慢してもらうしかない。


 それにしてもミラのことだからソロで潜っていると思っていたが、意外にもパーティを組んでいたのか。

 結局は逸れてしまったわけだが、賢明な判断だ。

 俺の知らない間にミラも成長したのかもしれないな。


「そういえばお互いまだ名乗ってもなかったな。俺はアレル。ミラの兄だ」

「…………知ってます(ボソッ)」

「む? 何か言ったか?」

「いえ何でもないです。えっと、私はヒイラギ……ヒーラと、言います」

「ヒーラか。よろしく。じゃあ行くぞ」


 簡単な自己紹介を済ませると、再びヒーラを小脇に抱えて走り出そうとした。


「で、できればもうちょっとマシな持ち方していただけませんか!? せめておんぶとか!」

「ふむ。確かにその方が両手が使えていいな」


 彼女を背負って再出発。

 走りながら訊いた。


「ミラがどこにいるか分からないから虱潰しに行くつもりだが、現在地からどれくらいの範囲まで分かる?」

「わ、私は半径五十メートルくらいまでなら」

「悪くないな」


《盗賊》の探索スキルがあれば、目に見えない周辺状況を探知することも可能だ。

 熟練者ともなると、現在地から半径百メートルまでのマップだったり、魔物や罠、宝箱の有無だったりを瞬時に理解できるらしい。


 ヒーラの助力を受け、俺は十一階層を走り回った。







 ようやく十一階層のマッピングが完成した。

 生憎とミラはこの階層にはいなかった。


 次は十二階層と行きたいところだが、


「二時間もかかってしまったか」

「むしろ二時間しか、ですけど……。普通こんなに早くマッピングできません……ていうか、何で魔物が勝手に死んでいくんですか……」

「それでもこのペースだと時間がかかり過ぎる」

「で、ですね」


 最悪なことに、どうやらこのダンジョンは深くなるほどフロアが広くなっていくらしい。

 虱潰し作戦ではミラを見つけ出すのにどれだけかかるか分からない。


 剣の都市のダンジョンであれば、各階層に転移魔方陣が設置されていた。

 だがこのダンジョンにはそれがない。

 すなわち一度潜ってしまったら、地上まで自力で帰還しなければならないのだ。


 どこか安全な場所に隠れてくれていればいいのだが……。

 それでも食料や精神的な問題だってある。


 ダンジョン内で食料を調達するのは簡単ではない。

 もちろん水の確保も難しい。

 一応、最低限の食料は持っていたらしいが、持ってもせいぜい一週間だという。


「……よし、ダンジョンコアを破壊してしまおう」

「はい?」


 ダンジョンコア。

 名前の通り、ダンジョンの中核――心臓だ。


 ここから供給される魔力によってダンジョンが維持されており、魔物や罠が常に新しく生成されていくのもこのダンジョンコアの力だった。


 それが破壊されれば、当然だがダンジョンを維持することはできなくなり、ダンジョンそのものが崩壊してしまうのである。


 そして崩壊時には、ダンジョン内の異物――つまり冒険者や探索者などが、自動的に外へと吐き出されることになる。

 つまりダンジョンコアを破壊すれば、ミラがどこにいたとしても地上へと帰還できるというわけだ。


「その方が早い気がするな。もちろん途中で運よくミラを発見できる可能性もある」

「いやいや、ここ、世界最大級とされてるダンジョンですよ!? そんなに簡単に攻略できるわけないじゃ――ぎゃう!? ……いきなり走り出さないでくださいよ……舌噛んだじゃないですか……いたい……」






 それから先はとにかく下へ下へと降りていくことに努めた。

 それでも最初は一階層で一時間はかかっていたのだが、だんだんと攻略ペースが速くなっていった。

 下層ほど魔物や罠が強力になっているにもかかわらずだ。


「……こっちの気がするな」


 分かれ道がくると直感で進み、


「おっ、階段だ」


 それが正しかったことが証明される。

 そんなことが徐々に多くなってきていた。


「……さっきからおかしくないですか? 全然迷ってないですよね?」

「何となくどっちが正しいルートか分かるようになってきた」

「え?」


 というか、このダンジョン、探索者を惑わせるためのやり口というか、流儀というか、傾向が各階層で共通しているのだ。

 まるで設計した人間がいて、その性格が反映されているかのようだった。


 例えば心理的な抵抗感を抱くようなルートがあれば、だいたいそれこそが正しいルートだったりする。

 設計者がいたとしたらきっと捻くれた人格の持ち主だろう。


「あと〝探知〟スキルが使えるようになってきた」

「はい?」

「あそこを右に行くと袋小路になってて魔物がいるだろ」

「えええっ? なんで分かるんですか!?」

「魔力や空気の流れとか、音の反響具合とか、そういうのを感じ取れば意外と簡単だぞ」







「……それってもう、私いなくていいですよね?」

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