第11話 一緒に来てくれ
色々とごたごたもあったが、冒険者になるための試験が終わった。
最終的な合格者は六名。
もちろん俺も合格した。
「すぐにダンジョンに潜ろう」
冒険者の証となるギルドカードを受け取るなり、俺はダンジョンに向かう。
ダンジョンの入り口は街の中心部にあった。
周囲を分厚い壁に囲まれ、厳重な警備がなされている。
ダンジョンから魔物が出てくることはまずないのだが、街中ということもあって、周辺住民の不安を解消する必要もあるのだろう。
出入り口のゲートでは、常に出入りを管理しているようだった。
俺は貰ったばかりのギルドカードを提示し、中に入る。
万一に備えて戦闘ができるスペースを確保しているのか、壁の内側はそれなりに広かった。
そしてキャンプをしている冒険者たちや、ダンジョン内で必要となる食糧やアイテムを扱った露天商などの姿があった。
「ダンジョンマップは要らんかねー。なんと十階層までマッピングが完成しているよー。しかも出没する魔物のデータ付き。初めて潜るなら必須だよー。今なら金貨一枚、お得だよー」
と、露天商が勧めてきたので買うことにした。
「まいどありー」
早速マップを見てみると、このダンジョンはなかなか複雑な構造をしているらしい。
同じ階層であっても、あちこちに階段があって幾つもの通路が交差しているようだ。
それに広大だ。
ダンジョンの入り口は直径十メートルほどの縦穴だった。
周囲をぐるりと囲うように螺旋階段が設けられている。
階段を降りると、そこには古代の神殿めいた空間が広がっていた。
前方と左右に廊下が続いており、早速、道が分かれているらしい。
マップには最短ルートが矢印で示されていたので、それに従って右の道へと進んだ。
まだ一階層ということもあって、出てくる魔物はスライムやゴブリンなどの雑魚ばかりだ。
トラップもほとんどなく、すんなりと次層へと続く階段を発見した。
ひとまず購入したマップが網羅している十階層までやってきた。
「ミラはいないなー」
ここまでミラに会うことはできていない。
さらに下層に進むか、それとも引き返して今までの階層を探すべきか。
思案していると、前方の道から冒険者と思われる三人組が焦った様子で走ってきた。
女三人のパーティだ。
「た、助けてくださいっ!」
よく見ると魔物の群れに襲われている。
オークやトロルといったこの階層ではよく出没する魔物だ。
「加勢する」
俺はそう告げて、彼らの脇を抜けて迫りくる魔物の群れの前に立ちはだかる。
「〝神空斬り〟」
目に見えない斬撃が虚空を走り、魔物の胴体をまとめて両断していく。
「終わったぞ」
振り返ると、三人組は呆然としていた。
「え? 今なにやった?」
「す、すごい……」
三人とも二十歳くらいだろう。
装備からして一人は剣士で、もう一人は魔法使い、最後の一人は……盗賊だろうか?
見たところ怪我をしている様子はない。
「助かりました……というか、めちゃくちゃ強いんですね」
女盗賊(?)が礼を言ってくる。
それからハッとしたような顔になって、
「そ、そうです……っ! あなたなら……っ!」
「?」
「実は私たちの仲間が一人、転移トラップに引っかかってしまったんです!」
彼女は緊迫した様子で訴えてくる。
「あの転移トラップ……発動時に発生した魔力量がかなり大きく、下手をしたら深部にまで飛ばされてしまったかもしれないのです……! ですが、私たちの実力じゃそこまで行くことができず……。もしあなたが深部に行くというのなら、彼女を探していただけませんかっ!?」
その提案に、俺は思案する。
どのみちミラを探しているところで、何の当てもないので闇雲に捜索するしかないのだ。
ただ、果たして初心者のミラがここより深いところに潜っているだろうか?
「彼女は冒険者になったばかりで……しかもまだ十歳の女の子なんです。隠密能力に長けているので、簡単にはやられないと思いますが……今頃は不安で泣いているかもしれません」
どうやらミラと似たような冒険者がいるらしい。
そう考えると放っておけない気持ちになってしまうが、しかし赤の他人より妹を優先させるのは、兄として間違っていないだろう。
「すまないが……」
「か、彼女はミラっていうのですが……」
「え? ミラ? 今、ミラって言ったか?」
「は、はい……」
「ミラは俺の妹だ!」
「えええっ?」
詳しく話を聞いてみると、どうやらミラはこの三人組とパーティを組み、このダンジョンに潜っていたらしい。
「ミラ、待ってろよ」
妹の危機を知って、俺は三人組と別れて全力で走り出す。
彼女たちがいても足手まといだろうし、俺一人で探した方が早いだろう。
◇ ◇ ◇
(クレハ様より直々に命じられた任務……緊張しましたが、上手くいったようですね)
アレルが猛スピードで走っていくのを見送り、彼女は心の中で胸を撫でおろした。
その隣では二人の女性が目を丸くしている。
「なんて速さだ……」
「あれ本当に人間?」
彼女は二人に礼を言った。
「お二人ともご協力ありがとうございました。こちらが報酬になります」
「おう、ありがとさん。にしても随分と楽な仕事だったぜ」
「ほんと。まぁまったく意味の分からない依頼だったけど」
実はこの二人とはパーティでも何でもなかった。
知り合ったばかりの赤の他人だ。
この街を拠点にしていた冒険者を捉まえ、パーティを組んでもらったのである。
彼女は《忍姫》クレハの配下だった。
先ほどの青年を騙し、少しでも長い間このダンジョンに留めておくという役割を与えられていた。
このためにわざわざ試験を受け、冒険者登録もしている。
(にしても、これだけ広大なダンジョンで人一人を探すなんてほとんど不可能だと思いますが……まったく迷う素振りもありませんでしたね……。本気で見つける気でしょうか?)
もちろん青年が探す妹はこのダンジョンにはいないのだが。
と、そのときだった。
なぜか青年がこちらに戻ってきた。
もしかして嘘がばれてしまったのかと、彼女は緊張する。
「ど、どうされました?」
「もしかして職業は《盗賊》か」
「え? あ、はい、そうですけど……」
本当は【上級職】の《上忍》なのだが、それを言うと皇国の関係者であることを勘づかれる可能性もあったので、彼女はそう嘘を吐いた。
しかしそれが悲惨な結果を招くことになる。
「ならちょうどいい。一緒に来てくれ」
「え?」
いきなり青年に抱え上げられた。
まるで荷物でも持つかのような抱え方だ。
そしてそのまま青年はダンジョンの奥に向かって走り出す。
「えええええええええええええええええええっ!?」
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