第3話 何で上から目線で評してやがんだ
女神様から与えられる祝福は職業だけではない。
職業よりももっと前に、というか、生まれると同時に授けられる祝福がある。
それが〝加護〟と呼ばれるものだ。
加護というのは、俺たちの全身を常に覆っている不思議なオーラのようなもので、よくよく目を凝らすと微かに見ることができる。
その効能は、身体を保護し、受けたダメージを肩代わりしてくれるというもの。
ただしその度に加護は消耗されていくが。
これがある限り、真剣でやり合ってもまず死ぬことはない。
俺は訊いた。
「一撃でも入れれば勝ちってことでいいか?」
「おいおい、マジでやる気かよ?」
「さっきからそう言っているだろう」
「ちっ。いいぜ。だったら職業の差ってやつを見せつけてやるよ」
二人のうち、小柄で俊敏そうな方が前に出てきた。
名前はよく知らない。
巻き毛なので、便宜上、巻き毛と呼ぶことにしよう。
「なんだ。二人同時に来ないのか?」
「あ? お前、どんだけ調子乗ってんだよ?」
巻き毛は忌々しげに顔を歪め、腰の剣を抜いた。
「お前くらい、俺一人で十分だっての!」
まぁ仕方がないか。
俺も剣を抜いた。
巻き毛が間合いを詰めてくる。
「おらおらおら!」
キンキンキンキンキンキン!
「ははっ、どうした!? 大口叩いたくせに、防戦一方じゃねぇか!」
キンキンキンキンキンキン!
「……守ってばっかりじゃいつまで経っても勝てねぇぞ!」
キンキンキンキンキンキン!
「そ、そろそろ終わりにしてやらぁ!」
キンキンキンキンキンキン!
「……ちょ、ちょっと待て!」
巻き毛は飛び下がり、いったん距離を取った。
「何で俺の剣を普通に捌いてやがんだよ!? 俺は《剣士》で〈剣技・初級〉のスキルを持ってんだぞ!?」
「いや、なかなか良い剣筋だと思うぞ」
「何で上から目線で評してやがんだ!?」
俺の方が剣を握って長いんだし、別におかしなことじゃないと思うんだがな?
「なに遊んでんだよ。《無職》なんかとっととやっつけちまえよ!」
口を挟んできたのはもう一人の少年。
巻き毛より背が高く、しかも小太り気味なので動きは遅そうだ。
小太りと呼ぶことにしよう。
「だったらお前も手伝えよ!」
「仕方ねぇな。もう面倒だから同時に行くぞ」
どうやら今度は二人一緒にくるらしい。
願ってもないことだ。
巻き毛と小太りが左右から攻めかかってくる。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
「む、さすがに二人同時はキツイな」
剣が一本しかない以上、同時に斬り付けてこられると対処できない。
なので二人の攻撃のタイミングを外すよう、上手く立ち回る。
「ふ、ふざけんなよ!?」
「《無職》の分際でっ……」
二人は必死に俺に一撃を当てようとしているが、捉えられずにかなり苛立っている。
そのせいでせっかくの二人掛かりだというのに、それがまったく生かされていない。
むしろ肩がぶつかって体勢が崩れてしまったりと、足を引っ張り合っている節もある。
なるほど。
〈剣技・初級〉スキルはあくまで剣の技術を高めるだけで、集団戦闘におけるコンビネーションを高めてくれたりはしないみたいだな。
カンッ。
「うおっ、危ねぇ!? 何しやがる!?」
「お前がそんなところにいるからだろうが!」
小太りが振った剣が巻き毛に当たりそうになったことで、ついには言い合いが勃発する。
俺はその隙を突いて攻めに転じた。
「あだっ!?」
「ぐあっ!?」
巻き毛の右手首を叩き、返す刀で小太りの首を切る。
もちろん加護のお陰で、実際には切れていないが。
「俺の勝ちだな」
「ふ、ふざけんな! 今のは無しだろ!」
「そうだ! 卑怯なタイミングできやがって!」
いやそれ戦場でも同じこと言えるのか。
「け、《剣士》の俺らが《無職》に負けるはずがねぇんだよ!」
「ああっ! 次は今みたいにはいかねぇぞ!」
ふむ、まだやる気か。
こっちとしては願ったり叶ったりだけどな。
やはり母さんを相手にしているより、ずっといい訓練になる。
「やめておくがいい。《剣士》ならば、それ以上の無様を晒すな」
不意に第三者の声が割り込んできた。
声の方に視線をやると、そこにいたのは俺たちと同じくらいの少年。
炎のような赤い髪が印象的だが、中性的で端正な顔立ちもまたよく目立つ。
「誰だお前は!?」
「お、おいっ……こいつって……」
喰ってかかろうとした巻き毛だが、小太りが何かに気づいてそれを制した。
「私も《剣士》だ。ただし貴様らより一年先輩だがな」
一つ年上だったようだ。
「貴様が《剣姫》ファラの息子か」
「そうだが?」
どうやら俺のことを知っているらしい。
まぁ母さんは有名人だからな。いや父さんや姉さんもだが。
……正確には、今の母さんは《剣姫》ではないのだが。
《剣姫》というのは【上級職】の一つではあるが、その中でも最上位に位置づけられることから、【最上級職】などと呼ばれることもあった。
もちろん誰もが認める町一番の剣士だ。
自警団員でないにも関わらず、大型の魔物が町の近くに現れた場合には、よく討伐の協力をお願いされている。
「次は私と相手をしろ」
「なんだ。あんたもやりたかったのか」
「雑魚二人に勝った程度で奢るな。《無職》の貴様に、私が本当の《剣士》の力を見せてやる」
ふむ? 随分と敵対心が剥き出しだな。
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