第4話 実力が互角だからとしか言えないが

 赤髪は言った。


「私は〈剣技・中級〉スキルを取得している。同じ《剣士》と言っても、あの二人とは格が違うぞ」


 ふむ、《剣士》になって一年で〈剣技・中級〉スキルか……。


「……それって、すごいのか?」

「なっ? 貴様っ、馬鹿にしているのかっ? 普通は早くとも二、三年はかかると言われているんだぞ!」

「そうなのか。知らなかった」


 赤髪は鋭く睨みつけてくる。


「この《無職》がっ……」


 むしろ《無職》だからこそ、《剣士》のことについて詳しくなくて当然だと思うのだが。


 まぁそんなことより、何でこいつはここまで敵対心を露わにしているのか?

 初対面のはずなのだが。

 いや、小さな町だし、どこかで会ったことがあるのかもしれない。


 あるいは《無職》が剣を握っていることが、そんなに気に喰わないのか。


「やっぱそうだって。自警団長の……」

「うお、マジか……」


 巻き毛と小太りがひそひそと言葉を交わしている。


 自警団長と言えば、確か赤い髪のごついおっさんだ。

 目の前のこいつと何か関係があるのだろうか。

 そう言えば、髪の色が一緒のような……


 俺の疑問を察したのか、赤髪は自分の素性を明かした。


「自警団長のエバンズは私の父だ」


 なるほど、親子なのか。

 髪の色以外はまるで似ていないな。


「貴様の母親には父が世話になっている」

「そうか」


 だったらなぜ怒っているのだろうか。

 ますます理解できない。


「……だが、これだけははっきりと言わせてもらう」

「?」

「この町で一番の剣士は私の父だ。貴様の母親ではない」


 赤髪はぎりりと悔しげに歯を噛み締めた。


「なのにっ、なぜ誰も分かってくれないんだ! 私の父こそが最強! あんな女など、パ――父の足元にも及ばないというのに!」


 ふむ。

 大よそ理解した。


「つまりお前はファザコンということか」

「ち、違う!? そういうんじゃない! 私は純粋にパ――父を剣士として尊敬しているだけだ!」


 本人は否定しているが、間違いないだろう。

 自分が最強と信じているはずの父親ではなく、俺の母さんが皆から町一番と言われていることが気に喰わないようだ。

 それが転じて、さらには息子の俺にまで敵意を抱いていると。


「とんだとばっちりだ。だがお陰で手合わせできるというのだから、むしろありがたいか」


 赤髪が提案してくる。


「しょ、勝負は加護が半分以下になるまで。それでどうだ? 私は普段からその条件で試合をしているが、安全に、それでいてそれなりに存分に戦える」

「それでいいぞ」


 先ほどやってみたが、決着条件が一撃では少々物足りなかったしな。


「もっとも、《無職》の貴様が相手ではすぐに終わってしまいそうだがな!」


 互いに剣を構える。


「いくぞッ!」

「うむ」


 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!


 むっ、さすがは〈剣技・中級〉スキルだ。

 巻き毛や小太りとは、剣速も重さも比べ物にならない。


 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!


 赤髪が跳び退って間合いを取った。


「ど、どういうことだ!?」

「……?」

「何で〈剣技・中級〉スキルを持つ私と、《無職》の貴様が互角に斬り合っているのかと訊いているんだ!」


 何でと訊かれてもな。


「実力が互角だからとしか言えないが」

「それがおかしいと言っている! 貴様、本当に《無職》なのか!?」

「ああ」

「そんなわけがあるか!」


 そんなこと言われても、本当なのだから仕方がない。


「くっ……ふざけおって……」

「いや、別にふざけてないぞ」

「黙れ。貴様にだけは絶対に負けない!」


 赤髪が怒りを露わに躍り掛かってくる。

 なんとも沸点の低い奴だ。


「喰らえ! 〈双刃斬り〉!」

「っ!?」


 さすがの俺も面食らった。

 というのも、赤髪の剣が左右からまったく同時に襲いかかってきたからだ。

 これは……幻?


 キンッ――ズバッ!


 咄嗟に片方を防ぐことしかできなかった。

 しかも、二本のうち一方が幻だったというオチではない。

 剣で凌いだ方も確かな重みがあり、なおかつ俺の左脇腹に強烈な一撃が叩き込まれていた。

 加護がごっそりと減る。


「私の攻撃スキル、〈双刃斬り〉だ」


 先に一発を決めて余裕が出たのか、赤髪は勝ち誇ったように今の攻撃の正体を明かす。


 なるほど、攻撃スキルか。


 スキルは大きく二種類に分けられると言われている。


 一つが常時発動しているタイプのスキル。

 例えば〈剣技・初級〉などがこれに相当し、いついかなる時も剣技が得意な状態を維持し続けている。


 もう一つが任意発動するタイプのスキルだ。

 これは本人が意識して初めて発動するもので、攻撃スキルもこの中に含まれている。

 常に発動し続けていたら日常生活に支障をきたすだろうからな。


「〈双刃斬り〉は見ての通り、一振りで二つの斬撃を繰り出すというもの。《無職》の貴様には絶対に真似できない芸当だ」


 赤髪は勝利を確信したような笑みを浮かべ、再び間合いを詰めてくる。


「果たして貴様にこれを防ぐことができるか?」


 このスキルに絶対の自信があるようで、そこから赤髪は〈双刃斬り〉を連発してきた。


「〈双刃斬り〉!」


 キンッ――ズバッ!


「〈双刃斬り〉!」


 キンッ――ズバッ!


「〈双刃斬り〉!」


 キンッ――ズバッ!


「ははっ! もうすぐで加護が半分を切ってしまうぞ!」


 ふむ。

 今の俺では防ぐのは無理そうだ。


 しかしこの技……ぜひ俺も使えるようになりたい。

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