第26話 本音は?

 二次予選も順調に勝ち進んでいった。

 そして気がつけば決勝である。


「アレルさん、これに勝てば本選出場ですよ! 頑張ってください!」

「やはり俺がいてもいなくても、リリアは予選敗退だったな」

「どうせわたしは、決勝まで勝ち上がることすらできませんでしたよ!?」


 同じブロックだが、勝ち抜いていけばリリアとは決勝でぶつかることになっていた。

 だがリリアは準決勝で敗れている。

 俺の相手はリリアを倒した剣士だ。


「《魔法剣士》か。随分と珍しい職業だな」

「……《無職》のあんたに言われたくないんだけど」


 対戦相手はギロッと俺を睨みつけてきた。


 俺より少しだけ年上といった女だ。

 B級剣士である彼女は、剣と魔法の双方のスキルを習得できるという【上級職】《魔法剣士》だった。


 これは剣士の大会だが、実はギルドに登録してさえいれば、剣士系の職業持ちでなくても出場できる。

《無職》の俺だって出れているしな。

 そして例えば《魔術師》が魔法を使って戦っても構わない。


 異種格闘戦になるが、剣士たちは剣こそが最強と信じて疑わず、実際、過去に剣以外の武器で出場した者は悉くが予選で敗退していることもあって、剣以外を使っての戦闘も許されているのだという。


 なので当然、《魔法剣士》が魔法を使用しても問題ない。

 一応は剣士でもあるため、完全な異種と比べれば観客の声も幾らか穏やかだ。

 さっき《召喚師》が魔物を召喚して戦っていたが、「自分では何もできない臆病者が!」「剣も振れない軟弱野郎!」などと罵声が酷かったもんな。


「それにしても、近距離では剣、遠距離では魔法といったふうに使い分けられるというのは、なかなか便利だな」

「そう言いつつ、随分と余裕じゃないのっ……」

「どちらも中途半端と言えば中途半端だからな」

「っ!」


 俺は女が繰り出してくる剣も魔法もひょいひょいと躱していく。

 確かに両方使えるのは大きな利点だが、剣では剣士系の【上級職】には及ばないし、魔法では魔術師系の【上級職】より劣る。

 どっちつかずとも言えた。


 どっちも極めることができれば最強かもしれないが。


 ……ふむ。

 ところで前々から気にはなっていのだが。


 頑張れば俺は魔法も使えるようになるだろうか?






「……本当なら本選まで温存しておきたかったんだけど……仕方ないわね」

「ふむ?」


 対戦相手が何やら意味深なことを呟いている。


「安心しろ。どのみちお前が本選に進むことはできないからな。何か隠しているスキルがあるというなら、今ここで出しておいた方がいいぞ。全力を出さずに敗北すると、後悔するだろうしな」

「っ! 馬鹿にして……!」


 事実を言ったまでだが……?


「見せてやるわよ! ……〈魔法剣〉ッ!」

「ほう」


 俺は思わず感嘆の声を漏らした。


 女の手にする剣が、なんと炎を纏って煌々と燃え出したのである。


「なるほど。剣に魔法を付与するスキルか」

「その通り。《魔法剣士》だけが扱うことができる最強の剣よ」


 女がその場で剣を振るう。

 すると炎が鞭のように伸び、襲い掛かってきた。


 咄嗟に飛び退いて躱すが、彼女が手首を返すと、それに合わせて炎の鞭は即座に軌道を変え、追撃してくる。

 ……こんな使い方もできるのか。


 この〈魔法剣〉が使えれば、近距離、中距離、遠距離、どのレンジでも戦えそうだな。

 なかなか面白い。


「良いスキルを見せてもらった。さすがは剣の都市だ。やはり学べることが多い。……本選に行けば、さらに珍しいスキルを見ることができるだろうか」

「残念だけど、本選に進むのはこのあた――――っ!?」


 俺は〝残像〟を残して相手の懐に入り込むと、《剣姫》の必殺スキル、〈ピアシングテンペスト〉で決着をつけた。

 女の加護が一気に消失する。


「ん? 何か言ったか?」







 二次予選を突破し、本選への出場が決定した。

 リリアは敗退したが、第8ブロックで優勝したライナもまた、本選への出場権を獲得している。


「うちのギルドから二人も剣神杯の本選に出場できるなんて! 一体何年ぶりでしょうか!」

「自分は負けたのによく喜べるな?」

「いいじゃないですか!? 仲間の成功を素直に祝福できる広い器の持ち主なんです!」

「ダウトだ。本音は?」

「アレルさんにがっつり賭けていたからがっぽり儲かっちゃったぜ、ふっふっふ……って、違いますよ!? いえ確かに儲かったのは事実ですけど!」


 この都市で開催される剣闘は、すべて賭けの対象。

 剣神杯の予選も例外ではなく、リリアは俺に賭けていたらしい。


「自分には賭けなかったのか?」

「は、はい……」


 リリアは弱々しく頷いた。

 しかしすぐに開き直って、


「ええそうですよ! どうせ最初から無理だと思ってました! それの何が悪いんですか!」


 ある意味、清々しい。


 本選は一週間後だ。

 というわけで、俺たちはまたダンジョンに来ていた。


 十四階。

 便利な転移魔法陣を使い、二次予選前に辿りついていたここからの再スタートである。


 噂では十五階を越えたあたりから、低頻度だが【最上級職】のリビングアーマーが出現し始めるらしい。


 俺が今まで会ったことのある【最上級職】は、《剣姫》と《双剣王》だけ。

 しかし《双剣王》はリリアの親父さんなので、そのスキルを見せてもらったことがない。

 まぁあの腕では、たとえ本人が本気になったろころで見せられないだろうけどな。


 他にも剣士系なら《剣帝》とか《絶剣士》というのがあるらしい。

 騎士系なら《姫騎士》や《騎士王》など。

 他にも公になっていないような職業もあるだろう。


「楽しみだな」


 だ、だ、誰かぁぁぁっ! という悲鳴じみた声が聞こえてきたのは、そのときだった。

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