第40話 筋肉があれば何でもできる
『キング・テイマー・カップ、準決勝第二試合! 決勝に駒を進めるのはどちらだ!? まずは今大会のサイクロンの目! S級ギルド〝モンスターランド〟所属っ、アレル調教師とその愉快な仲間たちの入場だぁぁぁっ!』
相変わらずの盛り上がりの中、俺はフィールドへと入っていく。
「ベヒモスだ!」
「リヴァイアサンもいるぞ!」
「どっちもまた見てみたい!」
今日はちゃんとベフィも一緒だ。
歩きながら瞼が閉じかかっているが。
だがベフィもリビィも戦う予定はない。
今回はフェニーに頑張ってもらうつもりだった。
「ニンゲンがたくさん……ガクブル……」
本人はがたがた震えているが、たぶん大丈夫だろう。
そのうち慣れるはずだ。
「ほ、本当に我が戦わねばならないのか……?」
「ボクらもやったんだから当然でしょ!」
「ん」
「く……し、仕方がない……」
フェニーは覚悟を決めた顔でフィールド中央へと歩いていく。
「おいまた別のやつが出てきたぞ?」
「あいつも神話級の魔物かっ?」
「やだ、渋くてかっこいい」
「けど、なんかめっちゃ怯えてないか……?」
「すでに死にそうじゃねぇか」
観客に心配されている。
『対するは前回大会の準優勝者! 決勝で惜しくも敗れ、キングテイマーへの挑戦権を逃したが、今大会はさらなる力を付けてリベンジを狙う! S級ギルド〝ブーブー〟所属! 自称〝筋肉調教師〟ガルガンダ調教師の登場だぁぁぁっ! 強敵相手に、その座右の銘〝筋肉があれば何でもできる〟ことを見せてくれるのかぁぁぁっ!』
反対側の入場口から姿を見せたのは、筋骨隆々の大男とワームと思われる五体の魔物だった。
『こ、これは一体どういうことだっ? ガルガンダ調教師、いつものマッスルモンスターズはどこに行ったぁぁぁっ?』
前回の試合を見ていたが、確かにミノタウロスやオーガ、ケンタウロスといった魔物たちを、ムキムキに鍛え上げた編成だった。
「ガハハハハハッ! この儂を今までの儂だと思うなよ! 前回大会の敗北で儂は悟ったのだ! 筋肉があっても何でもできるわけではない、とな!」
会場中がざわついた。
「マジか」
「脳筋が賢くなってる」
「むしろようやく悟ったのか」
『な、なんとガルガンダ調教師っ、己の信念を曲げてしまったぁぁぁぁぁぁぁっ!? 果たしてこれが吉と出るか、凶と出るのか! 試合開始だぁぁぁっ!』
試合が始まると同時、ワームたちが一斉にフィールドの地面へと潜っていく。
『これはいったん地中に隠れ、足元から攻撃を仕掛けるつもりかっ?』
だがいつまで経ってもワームが現れる気配はない。
「どうした! 攻撃をしてみるがいい! ガハハハハハッ! いや、できぬだろう! ベヒモスだろうがリヴァイアサンだろうが、地中にいるワームを攻撃することは不可能なのだ!」
なるほど。
つまりそういう作戦か。
『こ、これは……まさかガルガンダ調教師っ、このまま逃げに徹するつもりなのかっ?』
各試合には一時間という制限時間がある。
これを超過しても決着がつかなかった場合、戦闘続行が可能な魔物の数で勝敗が決まることになっていた。
しかしその魔物の数までもが同じだったときは、
『ぜ、前回大会の成績を考慮して勝敗がつけられる……っ! つまり、このままワームたちが地中に一時間潜り続けていたら……勝者は昨年決勝まで進んだガルガンダ調教師だ……っ!』
「なんて卑怯な作戦だ!」
「恥を知れ!」
「その筋肉は飾りか!」
「正々堂々と戦え!」
会場中から一斉にブーイングが巻き起こった。
「ガハハハハハッ! 何とでも言うがよい! 結局、勝てばいいのだ、勝てばな!」
だがガルガンダは非難の嵐を平然と聞き流している。
『ガルガンダ調教師、完全に開き直っているっ! しかし確かにこれは有効な戦術だっ! アレル調教師に果たして打つ手はあるのかっ? ぶっちゃけ何の変化も起こらない一時間なんて御免だからどうにかしてくれぇぇぇっ!』
中立の立場を忘れたのか、悲痛の本音が聞こえてきた。
「フェニー、いけるか?」
「や、やってみよう」
周囲の喧騒にビクビクしていたフェニーが、ここでようやく人化を解く。
直後、全身が一瞬にして炎に包まれた。
『なっ、謎の中年がいきなり燃え出したぁぁぁっ!? 大丈夫なのかっ?』
その炎が一気に膨れ上がり巨大な塊と化したかと思うと、さながら卵が孵化するときのように亀裂が走って割れた。
炎の翼を広げ、フィールドの真ん中に顕現したのは、翼開長二百メートルという巨鳥だ。
その全身から発せられる超高熱に、会場の気温が一気に上昇していく。
『ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ、フェニックスだぁぁぁぁぁぁっ!』
三体目の神話級の魔物の出現。
さすがに三度目ともなるとそんなに驚くこともないだろうと思ったのだが、
「きたあああああああああっ!」
「すげえええええええええっ!」
「どんだけえええええええっ!」
今までとまったく変わらないテンションで驚いてくれていた。
『なんとなんと、アレル調教師、これまた神話級の魔物であるフェニックスまで従えていたっ! だがしかし、鳥の魔物に地中に逃げ込んだワームを倒すことはできるのかっ?』
フェニーは地面に向かって炎の息を吐く。
「ガハハハハハッ! フェニックスとは恐れ入った! だがやはり儂の勝ちだ! どんな炎も地中にまでは届か――熱ぅぅぅぅぅっ!?」
突然ガルガンダが飛び上がった。
「熱っ、熱っ!?」
『これは一体どうしたのかっ? ガルガンダ調教師、謎のダンスを踊り始めたぞっ!』
「ダンスではないっ! な、何だこの熱さはっ!?」
フェニーの高熱の炎によって、地面が焼けた鉄板のように熱くなっているのだ。
なぜか裸足のガルガンダには、普通に立っているだけでも辛いようだ。
と、そのときフィールドの各所からワームたちが飛び出してきた。
『なんと地面を熱することで、無理やりワームを外へと引き摺り出したぁぁぁっ!』
空気よりも地面の方が熱を通しやすい。
地中にいると地獄だったのだろう、ワームたちは堪らず外へと出てきたようだ。
しかしそうなると今度は直接フェニーの息の餌食になる。
ゴオオオオオオオッ!
「「「ギャアアアアアアアアッ!」」」
五匹の焼きワームができあがり、決着がついた。
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