第35話 馬鹿なっ、この儂がっ
ダンジョンの奥へと進めば進むほど、アンデッドモンスターの数が増していった。
ゾンビはもちろん、骨だけのスケルトン、全身包帯のミイラ、あるいは霊体だけの存在となったゴーストなどなど。
「ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ」
俺はその悉くを光で浄化させていく。
普通の魔物は死ぬと死体が残るので、倒せば倒すほどその一帯には何ともグロテスクな光景が広がることとなる。
だが光魔法で浄化したアンデッドはすべて灰となってしまうため、灰だらけになるということを除けば、痕は綺麗なものだ。
なので掃除をしているようで楽しい。
汚れがどんどん綺麗になっていくあの快感に似ているのだ。
俺は更なる汚れを求めて、奥へ奥へと進んでいった。
「ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ」
「アレルさん!」
「ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ」
「アレルさん! アレルさん! アレルさん!」
「ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ、ホーリーレイ……ん?」
ふと名前を呼ばれていることに気づいて、俺は振り返った。
試験官のカエデが息せき切って追い付いてくる。
どうやら俺の進行速度が速すぎて、少し距離が開いてしまっていたらしい。
「あの……本当に初心者ですよね?」
「そうだが?」
「……浄化のプロでもあんな速さでの連発は難しいと思うのですが……」
「そうなのか?」
「……さ、さすがに魔力が枯渇しませんか?」
「まだまだ余裕があるぞ?」
帰りのことを気にしているのかもしれないが、まだ一割も減っていない。
もっと深くへと進むことができそうだ。
そう思って再び歩き出そうとすると、
「も、もう十分です!」
なぜか止められてしまった。
「アレルさんの実力は十分に分かりましたので戻りましょう」
「む。もういいのか? まだ下級のアンデッドしか浄化していないと思うのだが」
「……い、いえ、途中で何体か中級のアンデッドも倒していましたけど……グールとか、マミーとか……」
「そうだったのか? 気づかなかったな」
「いずれにしても、下級のアンデッドを浄化できれば試験としては合格ですし……」
カエデは言いながら周囲を見渡して、
「……随分と奥にまで来てしまいましたね……。ここまで潜ったのはわたくしも初めてです……厄介なアンデッドが現れるかもしれませんので、注意してください」
それから少し不安そうに訊いてくる。
「ところで、帰り道はちゃんと覚えていますか……?」
「問題ない。こっちだ」
「助かります。目が見えなくても周囲を把握することはできるのですが、東西南北の区別は難しいため、よく現在地が分からなくなるんです」
来た道を戻っていく。
浄化し尽くしたせいか、アンデッドにはほとんど遭遇しなかった。
「スケルトンか」
しかしそこへ一体のスケルトンが俺たちの行く道に立ち塞がった。
「スケルトンのくせに服を着ているのか?」
そのスケルトンは、マントのようなボロ布を身に纏っていた。
手には杖を持っている。
今まで遭遇してきたスケルトンは、こちらを見るなり一も二もなく襲い掛かって来たが、なぜかその場に突っ立って、まるでこちらを観察するかのような視線(目はないが)を向けて来ていた。
ただのスケルトンではなさそうだ。
「っ! この強く禍々しい魔力は……ま、まさか、あれは……上級アンデッドのワイ――」
カエデが何かを言いかけたが、その前にスケルトンはカタカタと顎を鳴らし、
『ほう、生きた人間とは珍しいな』
ん? 今、何か声が聞こえた気がしたぞ?
しかも耳からではなく、頭の奥に直接、響くような…………まぁ気のせいか。
何でも良いからとっとと浄化してやろう。
『我こそは――』
「ホーリーレイ」
『――ぎゃあああっ!?』
む? 今度は悲鳴が聞こえた?
『ちょっ、名乗る前に攻撃してくるとは何事じゃ!? そこはちゃんと待つのが道理じゃろう!? そんなことも知らぬのか、この若造め!』
このスケルトン、やはり普通のスケルトンとは違うようだ。
浄化の光を浴びても、僅かに骨の一部が溶けただけ。
これならどうだ。
『ふん。しかしその程度の魔法では我を倒すことなど――』
「ホーリークロス」
『――ぎょあああああっ!?』
十字の光がスケルトンを襲う。
『ば、馬鹿なっ、この儂がっ……』
今度こそ灰となって消滅した。
「あの……アレルさん?」
カエデがおずおずと声をかけてくる。
俺は振り返り、
「どうした?」
「今の、魔力から考えて上級アンデッドのワイトだったと思うのですが……」
「上級? 確かに普通のスケルトンではなさそうだったが、せいぜい中級といったところだろう?」
「……そうですか」
なぜか曖昧に頷くカエデ。
「ところでホーリークロスが、才能に恵まれ、しかも十分な訓練を積んだ祓魔師にしか使えない高位の光魔法であることはご存知ですか?」
「冗談はよしてくれ。ホーリーレイとそう大して難度は変わらないだろう?」
「……そう認識されているのでしたら、それで構いません…………もうあなたが何をしても気にしないことにします……」
何やら諦めたような顔で、ぼそぼそっと呟いていた。
それから俺たちは無事に地上へと帰還し。
数日後、合格が通知されてきた。
これですべての学院でセカンドグレードに進級できたぞ。
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