第11話 今度は逃げるわけにはいかねぇだろ

 矢のごとく直線状に放たれた雷撃のブレス。

 それが真っ直ぐこちらへと迫ってくる。


「プルル」


 襲来する雷撃の前に壁となったのは、魔界から召喚した俺のペット、プルルである。


 傍に置いておくと常に色んな物を食べてしまうので、いったん魔界に帰しておいたのだ。

 魔界なら大きくなっても問題ないしな。


 しかしこの短期間で随分と魔界のモノを吸収したようで、直径四メートルを越えていた。

 つい先日は掌に乗れる程度の大きさだったのに。


 それはともかく、プルルは俺の代わりにブレスを受け止めてくれた。


「なっ、一体どこからキングスライムが!? だが、さすがにニルバのブレスを受けては一溜りもあるまい!」


 ドーラはただのキングスライムと勘違いしたようだ。

 だがプルルはグラトニースライム。

 どんな攻撃でも吸収してしまう魔界の魔物だ。


 ぷるぷるぷる!


 プルルは俺の期待に応えて、雷撃のブレスを完全に身体に取り込んだ。

 かなり膨大なエネルギーだったのか、さらに一回り巨大化する。


「ニルバのブレスが無効化された……っ!? いや、吸収したのか!?」


 プルルは空を飛べないのでそのまま地上へと落下していくが、数分後に勝手に魔界に戻るように設定してあるので放置だ。


『相変わらず容赦のない使い方デスねェ……』


 空中戦は少々不利だが、撒くのも簡単ではなさそうなので戦うことにする。

 恐らくあのブレスはそうすぐには連射できないだろう。

 空気の塊を蹴って飛びかかった。


 しかしドラゴンは素早く上昇して俺を回避すると、回り込むように首を伸ばして背後から鋭い牙で襲い掛かってくる。

 俺は左手で空気の塊を殴って強引にそれを躱すと同時、横っ面へ蹴りを叩き込んでやった。


「グアアアアアアアアッ!?」

「ニルバ!」


 脳震盪を起こしたか、大きく傾いて数メートル落下するドラゴン。

 どうにか体勢を立て直したときには、俺はその背中へと着地していた。


 ドーラがすかさず立ち上がり、剣を手に俺と対峙する。


「はぁっ!」


 彼女の方から躍り掛かってきた。

 不安定なドラゴンの上だというのに、まるでそれを感じさせない俊敏な動き。

 そして鋭い斬撃。


 剣が専門ではないことを考えれば、決して腕は悪くない。

 だが生憎とこっちは、世界最強の剣士と言っても過言ではない《剣神》の母さんを倒しているのだ。


 剣を使うまでもない。

 手刀で相手の剣を受け止め、それどころか破壊してやった。


「……な」


 真っ二つに折れた剣身を見詰め、しばし呆然とするドーラ。

 俺はすかさずその背後へと回り、


「起きたら女皇とやらに伝えてくれ。相手をするのが面倒だからこれ以上、手下を俺にけしかけてくるんじゃない、とな」


 その首を軽く叩いた。


「あ……」


 気を失ってドラゴンの背中にどさりと倒れ込む。


 さて。

 これで最後にしてくれればいいんだがな。







 故郷の街が見えてきた。


「ふむ……どうやらちゃんと伝えてくれなかったようだな。あるいは伝えたがそれを聞き入れなかったか」


 俺はすぐに異変に気づいた。


 街の周辺に明らかに奇妙な集団が屯しているのだ。

 集団というか、軍隊と言ってもいいかもしれない。


「しかしどうやって先回りしたんだ? 進路を悟られないよう、わざわざ遠回りしたのだが」


 お陰で余計な時間がかかってしまったのだが、完全に無駄になってしまった。

 まるで俺がこの街に戻ってくることを知っていたかのようだ。


「……なるほど」


 思い当たる節があった。


 と、そこで俺が現れたことに気づいたのか、俄かにその集団が動き出す。

 その中には空を飛んでくる者も。

 どうやら鳥の獣人らしい。


「また会ったなァ! ここはテメェの目的地! 今度は逃げるわけにはいかねぇだろォ!?」


 鷲人族と思われる一際大柄な獣人の背中に乗っていたのは、あの虎人族の女だ。


 俺は彼女に背を向けた。


「って、また逃げる気かよ!? おいこら!?」


 背後から怒鳴り声が響いてくるが、無視。


 とりあえずこいつらを相手取っていても無駄だと悟った。

 を叩かないとな。


 まぁ街のことは父さんと母さんに任せておけば大丈夫だろう。



    ◇ ◇ ◇



「な、なんだこいつらは……?」

「これだけの数で歯が立たないなんて……化け物か……」

「つ、強過ぎる……」


 実家に帰ろうとしたアレルがその直前で引き返してから、数十分後のこと。


 街を包囲していた皇国の兵士たちは、またしてもみすみすターゲットを逃してしまったことの腹いせとばかりに、街を侵略して支配下に置こうと考えた。

 だがそこに現れたのは、二人の男女である。


「……なぁ、アタシら【最上級職】のはずだよな?」

「ん。……でも相手が悪かった」


 そのたった二人のを前に、皇国八将軍の二人、《獣王》ティナおよび《忍姫》カエデが率いる部隊はいとも容易く全滅させられてしまったのだった。


 そんな死屍累々の光景を見下ろしながら、それを作り上げた張本人たちが言葉を交す。


「お父さん、少しの間、家のことは任せました」

「? 一体どこに行くつもりだ、母さん?」

「うふふ、ちょっと今回のことで、あの子にお仕置きをしなければと思いまして」

「そ、そうか……う、うむ、そうだな」


 柔らかく微笑む彼女の目が笑っていないことに気づいて、小柄な男性は汗を垂らしながら頷いた。

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