第10話 変身したのか
ティナと名乗った虎の獣人が躍り掛かってくる。
体格を考えればかなり速い。
何も武器のようなものは持っていないので、恐らく近接戦闘タイプだろう。
「おらぁっ!」
拳を繰り出してくる。
俺はそれを躱しながら相手の懐へ潜り込むと、その勢いを利用して投げ飛ばした。
「なっ? ――ぐべっ?」
受け身も取れずに彼女は地面へと強かに叩きつけられる。
まさか拳を回避されたばかりか、投げられるとは思っていなかったのだろう。
「ティナ様!?」
「将軍が投げられた!?」
周囲を取り囲んでいる獣人たちが驚きの声を上げる。
「こ、この野郎っ!」
ティナは素早く起き上がると、腕を振るって殴り掛かってきた。
だが俺には当たらない。
足払いをかけてやると、大柄な身体が引っくり返る。
「な、な、な……」
俺との力の差を悟ったようで、地面に転がったまま唖然としている。
「将軍が手も足も出ないなんて……」
「何なんだ、あの男は……?」
「《無職》だなんてどう考えても嘘だろ!? ティナ将軍は【最上級職】の《獣王》なんだぞ!」
「そ、そんなことより将軍に加勢するんだ!」
「全員でかかれば――っ!?」
「オオオオオオオオオオオオッ!」
そのとき突然、ティナが凄まじい咆哮を轟かせた。
かと思うと、その身体が膨れ上がった。
口の牙が太く鋭くなり、爪が伸びていく。
さらに全身が毛に覆われていった。
気づけばそこにいたのは、筋骨隆々の虎だ。
ただし二足歩行で、身の丈は三メートル近くある。
「変身したのか」
獣人の中には、より獣としての特性が高まる〈獣化〉というスキルを持つ者がいると聞いたことがある。
知性が下がる反面、戦闘能力は大きく上がるらしい。
しかしこんなのと街中で戦ったら、色々と被害が出てしまいそうだ。
すぐ後ろには俺が泊めてもらった宿があるし、この辺りは住宅が密集している場所である。
「……ふむ。よく考えたらわざわざ相手をしてやる必要もなかったな」
俺は風を足元へと叩きつけると当時、思いきり地面を蹴って一気に飛び上がった。
「ッ!? ガルッ!」
ティナが慌てて俺を捕まえようと手を伸ばしてきたが、あと少しのところで空を切る。
「せっかく虎になったところ悪いが、このまま立ち去らせてもらう」
俺はさらに上空へと飛翔。
「逃げんじゃねぇっ! 降りてきやがれぇぇぇっ!」
地上からそんな叫び声が聞こえてきたが無視し、そのまま都市の外へと飛んでいった。
「もう少しだな」
道中で色々あったが、故郷の村まであと半日も飛べば到着するだろう。
「む? 何だ、あれは?」
前方の空からこちらへと向かってくる無数の点に気づく。
鳥の群れだろうか。
しかしそれにしては随分と大きい気がする。
「……ふむ。どうやらドラゴンのようだ」
それもドラゴンの劣等種とされるワイバーンと違い、本物のドラゴンである。
身体は二回り以上でかく、ワイバーンにはない屈強な前脚を有している。
背中には長大な槍を手にした人間が乗っていた。
「我こそは皇国八将軍が一人、《竜騎姫》ドーラである! 貴殿が《無職》のアレルか!」
その中の一人、一際立派なドラゴンの背に跨った女性が声を飛ばしてくる。
やはりまた皇国とやらか。
今度は《竜騎士》の集団らしい。
「そうだが」
「我が主君の命を受け、貴殿を捕縛しにまいった! 覚悟なされよ!」
いきなり捕縛ときたぞ。
もはやなりふり構わなくなってきたな。
『ククク、一体その女皇とやらに何したんデスかねェ?』
「知らん。会ったこともない」
竜騎士たちが俺を取り囲む。
全部で十二体というか、十二セット。
ドーラとやらの号令を受けて、一斉に襲い掛かってくる。
俺は足元に空気の塊を作り出すと、それを思いきり蹴った。
ズドンッ!
爆発音を奏でながら一気に加速。
ドラゴンが首を伸ばして噛み付こうとしてきたが、口を閉じる前にすり抜け、その背中に乗っている竜騎士の下へ。
「なっ!?」
慌てて槍を突き出そうとしてきたが、遅い。
俺の足裏が顔面を蹴り飛ばしていた。
「ぶごっ!? ……う、うわああああっ!?」
ドラゴンの上から吹っ飛ばされ、悲鳴を上げて地上へと落下していく。
飼い主が落ちたことを悟ったドラゴンが、慌てて追いかけていった。よく訓練されたドラゴンのようだ。
「何だ今のは!?」
「き、気を付けろ! この男、不思議な動きをするぞ!」
竜騎士たちは騒然となりながらも、すぐさま互いを叱咤し合って立て直す。
が、そのときにはすでに俺は包囲網を突破していた。
そのまま彼らを放置して飛ぶ。
「逃げる気だ!」
「追え!」
慌てて後を追いかけてくるが、
「な、何て速さだ!?」
「ドラゴンが追い付かない!?」
まぁ空を飛ぶ能力に関して言えば、飛行能力に特化したワイバーンに劣るからな。
このまま撒いてしまおう。
「そうはさせぬ!」
「っと!」
上空から急降下してきたのは、竜騎士集団を率いるドーラとかいう女とそのドラゴンだった。
俺がギリギリで回避すると、すぐさまターンして再び迫ってくる。
他の連中とは速度も動きも段違いだ。
俺は空気を蹴ってさらに加速したが、それにあっさりと追い縋ってきた。
「ニルバ、ブレスを!」
「オオオオオオッ!」
直後、ニルバというらしい彼女のドラゴンが大きく口を開いたかと思うと、俺目がけて強烈なブレスを放ってきた。
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