第9話 ここはアタシの縄張りだっての
忍者集団が襲い掛かってくる。
ちなみに《忍者》というのは東方人特有の職業で、諜報や暗殺などを得意としている。
恐らく彼女たちは全員が東方人なのだろう。
皇国とやらはどうやら東にまで勢力を伸ばしているらしい。
まぁそれはともかく。
「「「っ!?」」」
突然、彼女たちの動きが止まった。
「こ、これはっ?」
「地面から手が……っ!?」
驚く彼女たちの足首を掴んでいたのは、俺が黄魔法で生み出した土の腕である。
いきなり足を取られて、何人かが顔から地面にスッ転ぶ。
「まさか魔法まで使えるのですかっ?」
「そんなはずは……っ! きっとどこかに仲間がいるのです!」
身を起こしながら周囲に注意を払っているが、誰もいないぞ。
「ふっ!」
「おっと」
真っ先に土の腕を破壊したのは彼女たちを束ねているらしい小柄な少女。
カエデといったか。
彼女が短剣を手に斬り掛かってきたが、俺は軽く身体を捻って躱す。
間髪入れずに繰り出された二撃目もあっさり避けると、一瞬の隙を突いて額に掌底を見舞ってやった。
「ぶっ!?」
また吹っ飛んでいった。
身体が小さいのでよく飛ぶ。
しかもちょうど土の腕から逃れたばかりの別の忍者と激突し、そろって地面を転がった。
「よくもっ!」
他の忍者たちが憤りを露わに次々と飛びかかってくる。
だが頭に血が上ったせいか、まるで連携が取れていない。
俺は順番に無力化させていった。
◇ ◇ ◇
「急げ! このままじゃアイツに手柄を横取りされちまうぜ!」
「は、はい!」
配下を叱咤しながら、街中を疾走する女性がいた。
頭部に獣の耳を生やし、臀部からは長い尻尾が伸びている。
女性にしては大柄で、なのにその動きは猫のように俊敏だった。
声を荒らげる際に口内から覗くのは鋭い牙だ。
それもそのはず。
彼女はただの人間ではない。
獣の特性を有する亜人の一種――獣人。
その中でも一、二を争う戦闘能力を持つとされる虎人族だった。
彼女の名はティナ。
皇国八将軍の一人である。
「あのクソチビが! ここはアタシの縄張りだっての!」
苛立ち任せに咆えながら全速力で駆ける。
この街はすでに皇国の支配下にあり、ティナはその管理を任されていた。
女皇が探している人物がいるとの情報が入ったのは、つい先ほどのことだ。
これで自分が連れて帰れば、陛下に褒めてもらえる!
まるで手懐けられた飼い犬のように喜んだ彼女だったが、同時に聞き捨てならない情報も届いた。
同じく八将軍の一人であるカエデ率いる忍者連中が、先んじてターゲットに接触したというのだ。
しかも勝手に縄張り内に配下を送り込んでいたばかりか、ティナへは何の連絡も寄こさなかった。
「ふざけやがって! 絶対テメェに譲って堪るか!」
だが相手は隠密行動に長けた【最上級職】の《忍姫》だ。
直接戦えばティナが負けることはないが、一度逃げられてしまえば追うのは難しい。
一応は配下にその場に留めて置くようにと命じてはいるが、果たして……。
そうしてようやく目的地が近づいてきた。
「ティナ様っ」
と、そこで配下の一人と合流する。
何やら随分と慌てた様子だ。
「チィッ、もしかしてすでに逃げられちまったなんて――」
ティナは嫌な推測とともに舌打ちし、
「――は?」
それに気づいた。
「な、なんだこりゃ……?」
道のあちこちに、黒い装束を身に付けた人間が倒れているのだ。
もちろんティナは彼女らのことを知っている。
皇国八将軍が一人、《忍姫》のカエデが率いる忍者集団だ。
立っているのは一人の青年だけ。
その特徴は伝え聞いていた〝アレル〟と完全に一致する。
「まさか、これをテメェがやったのか……?」
◇ ◇ ◇
とりあえず忍者集団を無力化した。
それにしてもこれだけ暴れたのにまるで人が来なかったな。
恐らくこいつらが、何かしらの方法で人が寄り付かなくなるようにしていたのだろう。
まぁ野次馬が集まってこないのは、こっちとしてもありがたい。
と、そのとき大きな気配が猛スピードで接近してきた。
そして現れたのは獣人の女。
恐らく虎人族だろう。
随分と急いできたのか、肩で息をしている。
「な、なんだこりゃ……?」
彼女はそこかしこで気を失ったり呻き声を上げたりしている忍者たちを見て、唖然としたようだった。
どうやらたまたま通りすがったというわけではなさそうだ。
「まさか、これをテメェがやったのか……?」
「そうだが?」
「っ……んな馬鹿なことが……」
「もしかしてこいつらの仲間か? 安心しろ。命までは奪っていないからな」
と、そこで彼女は道の端っこに転がっていた少女に気づき、慌てて駆け寄っていく。
「オイ、何があったんだよっ!?」
「……ん。見ての通り。抜け駆けして先に捕まえようとしたら、やられた」
この忍者集団のリーダーであるカエデという名の少女だ。
「何でテメェまでいて全滅してんだよ!?」
「普通に負けた」
「相手は《無職》じゃねぇのか!?」
「知らない」
俺は二人の会話に割り込んだ。
「俺は《無職》だぞ」
「……と、本人は言ってる」
「チッ、自称ってやつか」
「いや本当にそうなんだが。……む」
さらに複数の気配が近づいてきたかと思うと、俺を取り囲むように次々と姿を現す。
全員が獣人だ。
「……はっ、まあいい。お陰でテメェにまんまと手柄を掠め取られずに済んだぜ」
先ほどの虎の獣人が鼻を鳴らし、カエデを放って俺の方を見てくる。
「アタシは皇国八将軍が一人、ティナ。逃げ隠れすんのが得意なこいつらと違って、アタシらは生粋の武人だぜ?」
どうやら今度はこの獣人集団を相手取らなくてはならないらしい。
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