第21話 仲間を呼んできたのか

 Aランクパーティ〝フロントライン〟は青年を追っていた。

 突然、足元が揺れ始める。


「な、なんだ、地震かっ?」

「どんどん強くなっていくぞ……!?」


 だがいきなりぱったりと振動が収まった。

 一体何だったのかと、訝しがっていると、


「お、おい、これを見ろ」

「こいつは……デスモグラじゃねぇか……」


 地上に巨大な頭の一部だけを出して絶命していたのは、土中を移動して足元から襲い掛かるモグラの魔物だ。

 全長は小さくても三メートルを超え、人間を丸呑みしてしまうこともある。


「頭が割れてる……」

「馬鹿な、デスモグラの頭部は硬質な毛と分厚い頭蓋に護られているはずだぞ……?」


 だからこそ、地中から出てくる瞬間を突いたとしても、なかなか有効なダメージを与えることができない強敵なのだ。


「あいつがやったのか……?」

「だがいつの間に……? 一瞬、立ち止まったようには見えたが、それだけでデスモグラを仕留められるはずがないだろ……?」

「ま、まずい! あいつダブルヘッドスネイクに無防備に近づいてやがるぞ!」


 メンバーの一人が血相を変えて叫び、彼らはハッとして視線を上げる。

 デスモグラの死体に気を取られている間に、青年は二百メートル以上も先に進んでしまっていた。


 そして彼の前に横たわっているのは、長く巨大な緑色の生き物。

 ダブルヘッドスネイクは、Aランクパーティである彼らですら苦戦する魔物だ。

 尾が存在せず、身体の両側に頭部がついている巨大な蛇で、しかも強力な毒を持っている。

 数年前に初めて遭遇したとき、命からがら逃げ伸びたのは苦い思い出だった。


 その二頭蛇が青年の接近に気づいて目を覚ましたらしい。

 鎌首をもたげ、両側から襲い掛かる。


 ドドオオオオオオオオオオン!!!


「「「……な?」」」


 しかし次の瞬間、蛇の頭部が盛大に爆発した。


 爆風が彼らのところまで押し寄せてきて、思わず目を瞑る。

 瞼を開くと、ダブルヘッドスネイクは頭部を失って蛇身だけが倒れていた。


「い、今のは……エクスプロージョン……?」

「最上級の赤魔法、だと……?」


 彼らは理解が追い付かずにその場に立ち尽くす。


 気づけば謎の青年は平原の遥か先。

 彼らですら未だほとんど挑戦できていない平原の中間層へ、すでに足を踏み入れていた。




    ◇ ◇ ◇




「ふむ。どうやらもう付いてきていないようだな」


 気配が完全に遠ざかっていた。

 俺に声をかけてきたフロントなんとかという冒険者たちが、ずっと後を付いてきていたのである。


 特に殺気や危険な兆候は感じなかったので放っておいたのだが、一体何が目的だったのだろうか?


「まあいい。先へと進もう」


 中心部の巨大岩まで、まだ半分もきていない。

 ようやく三分の一といったところか。






 話に聞いていた通り、巨大岩に近づくほど段々と強力な魔物が出現するようになっていった。


「ガルアアアッ!」

「シャァァァッ!」

「メエエエエッ!」


 今俺の目の前に立ちはだかっているのは、獅子と山羊と蛇の頭を持つ魔物キマイラだ。


 獅子は鋭い牙で噛みつこうとしてくる。

 山羊はどうやら白魔法を使えるようで、味方を強化したり回復したりしている。

 そして蛇は猛毒の霧を吐き出してくる。


 見た目は悍ましいにもかかわらず、三者三様の役割を果たしながら連携してくるあたり、意外にも知能が高いらしい。


「メエエエエエッ!?」


 まずは厄介な山羊から倒した。


「グギャッ!?」

「ガァァァッ!?」


 続いて蛇を仕留め、最後に獅子を片づける。


 さらに進むと、今度は燃え盛る火の鳥が現れた。


「クェェェェッ!」


 空から炎の息を放ってくる。


「ブレイズバードか。――パーマフロースト」

「クェッ!?」


 青魔法で凍らせてやると、地上へと落ちてきた。

 首を斬って仕留める。


「ウホオオオオオオオオッ!!」

「でかいゴリラだな」


 今度は身の丈十メートル近い巨大猿が襲いかかってきた。

 しかも腕が四本あり、それを振り回して殴りかかってくる。


「〝双刃斬り・改〟」

「ブホッ!?」


 一振りで四つの斬撃を繰り出し、四本の腕を一度に斬り落とす。

 自慢の腕を失って呆然とする巨大猿の頭へ、反す刀で脳天斬りを見舞う。

 巨体が地響きとともに倒れ込んだ。






「これでようやく3分の2か」


 巨大岩が近づいてきた。

 伴って遭遇する魔物もさらに強くなりつつある。


「っ!」


 蟷螂のような二本の大鎌を振り回しながら猛スピードで襲い掛かってきたのは、一メートルを越える巨大な蜂だ。


 ブウウウウウウウウウウウウウウンッ!

 シュババババババババババババババッ!


 翅音と鎌の音が非常にうるさい。


 ザザンッ!


「~~~~っ!?」


 まずは鎌を切断してやる。

 するとすかさず尾の毒針を向けてきたので、


 ザンッ!


「っ!?」


 そいつも斬り飛ばす。


 ブウウウウンッ!


 そうしたら慌てて逃げていってしまった。


「む?」


 しばらくして、空から無数の物体が飛来してくる。


「……なるほど、仲間を呼んできたのか」


 そのすべてが先ほど逃がしたのと同じ種類の蜂だった。

 全部で百匹以上はいるだろうか。



 ブウウウウウウウウウウウウウウンッ!

 シュババババババババババババババッ!

 ブウウウウウウウウウウウウウウンッ!

 シュババババババババババババババッ!

 ブウウウウウウウウウウウウウウンッ!

 シュババババババババババババババッ!

 ブウウウウウウウウウウウウウウンッ!

 シュババババババババババババババッ!



 ……めちゃくちゃうるさいな。

 耳がおかしくなりそうだ。


「〝飛刃〟」


 ズバババババッ!


 接近される前に刃を飛ばして斬り落としていく。

 大群なのでたった一撃で、何匹も一緒に仕留めることができた。


 それでも元の数が多いため倒し切ることはできず、接近を許してしまう。

 俺を全方位から取り囲んで一斉に飛びかかってきた。


「そっちは〝残像〟だ」


 だがすでに俺はその場にはいない。

 ほとんど一塊になってしまった蜂の大群へ、俺は爆炎を見舞ってやった。


「エクスプロージョン」


 ドゴオオオオオオオオオオンッ!

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