第41話 朝までぐっすりだから
夜中に危険な気配を察して目が覚めた。
直後、何かが部屋の中に入ってくる。
ふむ、こんな時間に何の用だろうか?
訝しむも、ひとまず寝たふりをして様子を見ていると、そのままベッドで眠る俺たちのところへ飛び掛かってきた。
首を鷲掴みにし、力任せに床へとひっくり返してやる。
「アアアアアッ!」
「カイト?」
目が真っ赤に染まり、牙を剥いて謎の声を上げるのは、昼間とは別人のようなカイトだった。
「な、何が起こっているんだ?」
横で寝ていたライナも目を覚ましたらしく、身構えながら訊いてくる。
「分からない。とりあえず眠ってもらうか」
俺は白魔法を使い、強制的にカイトを眠らせることに。
かなり強くかけて、ようやく眠ってくれた。
ドタンバタン!
そのときアークとレイラが寝ているはずの隣の部屋から激しい物音が聞こえてきた。
「っ、アーク! レイラ!」
「心配ない。二人ならこれくらい対処できるはずだ」
二人の部屋に行ってみると、クーファが床で倒れていた。
「いきなりお姉ちゃんがおそいかかってきたの!」
「なんか様子が変だったよ」
二人が報告してくれる。
「お、おい、外を見てみろ」
ライナが焦ったように窓の外を指さす。
見ると、街には明かり一つない真夜中だというのに、どこかに向かって歩く人たちの姿があった。
「ライナ、カイトとクーファを頼む。目を覚ました場合に備えて、一応ロープか何かで身体を縛っておいた方がいい」
「どうする気だ?」
「ちょっと外を調べてくる。アーク、レイラ」
「ふえ?」
「僕たちも行くの?」
「もちろんだ」
〝隠密〟状態で、俺は双子と一緒に街の人たちを追いかけた。
どこからともなく人が集まってきて、気づけば結構な人数になっている。
そして全員が同じ方向へと向かっていた。
時々瞼が閉じかけるレイラを起こしながら、やがて辿り着いたのは赤の学院である。
どうやら学院の広場に集合しているようだ。
「なるほど、あれがこの元凶か」
その広場の中央にいたのは、一見すると人間の集団だった。
だが纏う気配から、似て非なる存在であることが分かる。
「パパ、あの人たち何?」
「恐らく魔族だろうな」
「まぞく……」
建物の陰に身を潜めて見ていると、その魔族たちが街の人たちの首の辺りに噛みついていることが分かった。
「吸血鬼……」
アークが小さく呟く。
「ふむ、よく知っているな」
「……絵本で読んだから」
「そんな本、家にあったか?」
ともかくアークが言う通り、あれは魔族の一種である吸血鬼だろう。
恐らく街の人たちの血を吸っているのだ。
「なんで大人しく吸われてるの?」
レイラが不思議そうに訊いてくる。
「吸血鬼には血を吸った相手を眷属にする能力があるんだ」
カイトとクーファも操られていたのだろう。
単に血を吸われているだけのようだったので、ひとまず今日のところは手を出さずに、街の中を調べてみることにした。
すると家に残っている人たちも、近づいたら目を赤くして襲い掛かってくることが分かった。
眷属化されていない人間を発見すると、勝手に血を吸おうとするらしい。
どうやら、そうやって次々と街の人たちが吸血鬼の支配化に置かれていったようだ。
まるで感染病のようだな。
しかもさらに詳しく調査してみると、この赤の学院がある一帯だけではなかった。
他の学院でも周辺に住んでいる人たちが集合し、そこで吸血鬼によって血を吸われていたのである。
魔法都市は六つの学院を中心に六つの地域に分けられており、その地域ごとに別の吸血鬼グループが管理しているようだ。
「随分と面倒なことになってるな」
魔法都市は魔王軍を撃退などできていなかった。
それどころか当人たちも知らない間に、魔族の手中に落ちてしまっていたらしい。
翌朝、カイトとクーファは何事もなかったかのように起きてきた。
「え? 昨晩ですか? 何も変わったことはなかったですけど……」
「それどころかまったく記憶がないわね。最近、朝までぐっすりだから」
二人とも昨晩のことは覚えていないらしい。
一説には吸血鬼は太陽の光に弱いという。
もしかしたら夜にしか眷属にすることができないのかもしれない。
「今日は黄の学院の見学に行くつもりだから、案内はいいぞ」
「そうですか? まだしばらく都市にはいるんですよね?」
「ああ、そのつもりだ」
念のためカイトたちには真実を伝えず、俺はライナと双子を連れて家を出る。
「どうするつもりだ?」
「もちろん、吸血鬼を倒す。昨日の夜のうちに居場所は突き止めておいたからな」
彼らの隠れ場所はいずれも魔法学院だった。
どの学院にもあまり人が立ち入らない場所が沢山あって、とりわけ地下には謎の部屋が幾つも存在している。
それを彼らは拠点としているようなのだ。
地下なら昼間でも太陽の光を心配する必要はないしな。
吸血鬼にとって人間は食糧に等しい存在だ。
戦って都市を奪い取ろうとすれば、その貴重な食糧が失われることになる。
だから内側からこっそりと支配して、安全に、そして永久に血を供給してもらえるようにしたのだろう。
なんとも狡猾で恐ろしいやり方だ。
しかしだからこそ油断していたのかもしれない。
俺たちがその部屋に突入すると、吸血鬼たちはぐっすり眠っていたらしい。
「「「っ!? に、人間……っ?」」」
慌てて飛び起きるが、そのときにはすでに同胞が何人も斬り倒されている。
「えい!」
「やっ!」
アークとレイラも部屋の中を駆け回って、次々と吸血鬼を斬り捨てていく。
「何だこいつらは!? は、早く逃げ――」
「逃がしはしない」
慌てて部屋の入り口へと走った吸血鬼たちは、そこで待ち構えていたライナの剣の餌食となった。
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