第42話 たぶんちょうどいい相手だ
「パパ! この人たち、傷が治ってくよ!?」
「ふむ、本当だな」
斬り倒したはずの吸血鬼たちが次々と起き上がってくる。
レイラの言う通り、切り傷が修復していた。
「くははははっ! 無駄だ、人間ども! 我らの居場所を突き止めたことは褒めてやるが、しかしそこまでだ。貴様らも我らの餌となるがよい!」
一番奥にいた吸血鬼が哄笑を響かせる。
どうやらこいつがリーダー格のようで、他の吸血鬼たちとは内に有している魔力量が明らかに違う。
「ふむ、ならばこれでどうだ。――ホーリーレイ」
「ギヤアアアアアアッ!?」
白魔法で浄化の光を放つと、直撃を食らった吸血鬼が絶叫を轟かせた。
光が収まっても、光を受けてドロドロに溶けてしまった部分が回復する気配はない。
太陽の光に弱いことから、もしやと思ったのだが、やはりこれなら効くようだ。
「貴様っ、剣士ではないのかっ!?」
「生憎と魔法も使えるんでな」
俺はホーリーレイを連発していく。
さらに俺に倣って、アークとレイラも放った。
「こんな子供まで!?」
「嘘だろう!?」
「ギヤアアアッ!」
次々と浄化の光を浴びて、吸血鬼たちが絶命していく。
「くっ! 我が同胞たちを……っ! 許さぬ!」
リーダー吸血鬼が怒りを露に躍りかかってきた。
「ホーリーレイ」
「無駄だっ! 上級吸血鬼(アークヴァンパイア)たるこの我に、その程度の浄化魔法など効かぬ!」
ふむ、どうやらこいつには耐性があるようだ。
「もっと強くしてみるか。ホーリークロス」
「グギャァァァァッ!」
「おっ、効いた」
「ば、馬鹿な……ホーリークロスまで使えるとは……」
赤の学院に潜んでいた吸血鬼たちを全滅させた俺たちは、すぐに次の学院へと足を運んだ。
そして順調に奴らを殲滅させていった。
最後に黒の学院の地下にいた吸血鬼たちを片づけ終わった。
「よし、これで全部だな」
「終わったー」
ライナが疲れたように息を吐きながら訊いてくる。
「ふぅ……。これで街の人たちは吸血鬼たちの支配から解放されたと考えていいのか?」
「いや、まだ一つやることが残っている」
「? それは?」
首を傾げるライナから視線をずらし、俺は部屋の天井に張りつくそれへと目を向ける。
それは一匹の蝙蝠だった。
「とっくに気づいているぞ。そろそろ正体を現したらどうだ?」
まぁそのつもりがなくても、無理やり暴いてやるけどな。
「ホーリーレイ」
浄化の光をその蝙蝠目がけて放つ。
しかし蝙蝠は素早く空中に逃げたかと思うと、宙を一回転しながら地面へと降りてくる。
その瞬間、膨大な魔力が解き放たれるとともに、蝙蝠が本来の姿を取り戻す。
「っ! 吸血鬼っ! まだ生きていたのかっ!」
ライナが慌てて身構える中、その吸血鬼は肩を竦めて息を吐く。
「まったく、本当に面倒なことをしてくれましたねぇ。また一からやり直さなければいけないじゃないですか」
「させるとでも思っているのか? だいたい残っているのはお前だけだぞ?」
「ハハハ、何の問題もありませんよ。あなた方が倒したのは、所詮ただの駒。吸血鬼の真祖たるこの私、ヴラドがいる限り、幾らでも生み出すことができます」
ふむ、どうやるのかは分からないが、吸血鬼は人間と違う繁殖の仕方をするらしい。
「となると、お前を倒せばいいってことだな」
「一応そういうことにはなりますねぇ。もっとも、それは不可能なことですが」
俺はアークとレイラに言う。
「というわけだ。二人でやってみろ」
「うん! 頑張るーっ!」
「え? 僕らがやるの?」
レイラは両手を上げてやる気を見せ、アークは目を丸くした。
ライナが声を荒らげる。
「ちょっ、ちょっと待て! あいつ、只者ではないぞ!? 恐らく魔王軍の幹部だろう! 幾ら何でも危険だ!」
「心配するな。たぶんちょうどいい相手だ」
剣の都市で遭遇した魔王軍の幹部は、俺が倒してしまったからな。
今度は二人に任せよう。
「ククク……ハハハハハッ!」
ヴラドがいきなり笑い出した。
「その子供が? この私の相手を? 我が子を真っ先に犠牲にしようとは、人間の親とは自分と酷いものですねぇ」
「いいのか、そんなに油断して。もう始まってるぞ」
「なっ!?」
すでにレイラが地面を蹴って肉薄していた。
斬撃がヴラドの首を深く斬り裂く。
「っ……これはこれは、ただの子供と侮ってはいけないようですねぇ」
一瞬目を見張りはしたものの、すぐに余裕の笑みを浮かべるヴラド。
ほとんど千切れかけていたはずの首が、あっという間に繋がってしまった。
「すぐ治る~っ!」
これまでの吸血鬼たちとは比較にもならない修復速度に驚くレイラ。
一方、アークがヴラドの背後に回り込んでいた。
その剣は刀身が煌々とした光に包まれている。
「たっ!」
「ぐッ!?」
背中を斬りつけられ、ヴラドが顔を歪める。
「……なるほど、浄化魔法を剣に付与したわけですか。ですが、この程度では効きませんよ」
しかし浄化の光を浴びたはずの傷跡も、瞬く間に修復していった。
「うーん! じゃあ、これ! ホーリークロス!」
レイラが放ったのは上級吸血鬼にも効いた浄化魔法だ。
それがヴラドの全身を包み込む。
だが光が収まった後も、ヴラドは不敵な笑みを浮かべてその場に立っていた。
「あんまり効いてない!?」
「……みたいだね」
「ククク、私は真祖ですよ? 浄化魔法であろうと太陽の光であろうと、この私の前には無効です。……ではそろそろ私の方から行かせていただきましょうかね?」
そして何を思ったか、ヴラドは指の爪で自らの手首を斬り裂いた。
血が吹き出し――それが鞭のように振るわれる。
「「っ!」」
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