第42話 いや、その通りだが?
六学院魔法大会の初日。
どうやら俺はその新人部門なるものに出場しなければいけないらしい。
先日、学院長から直々に話がきたのだ。
しかも五つの学院から。
まぁ、何をするか知らないが、いっぺんに済ませてしまえばいい。
「……それができるタイプのものなんスかね、ご主人サマ?」
出場者は学院長たちに挨拶をしなければならないようなので、俺は大会会場の貴賓席へと向かった。
そこには五人の学院長たちの姿があり、俺が近づいていくとこちらに気づいたらしく、全員の視線が集まってくる。
どうやら黒の学院の学院長はまだ来ていないようだ。
「挨拶をしてこいと言われたから来たのだが」
俺がそう告げると、
「紹介するぜ! こいつがうちの学院からの出場者、アレルだ!」
「紹介しましょう。彼が青の学院の出場者であるアレルです」
「紹介しよう。彼が我が学院が選んだ出場者、アレルだ」
「うむ、紹介するぞ。こやつが黄の学院の代表、アレル君じゃ」
「紹介いたしますわ。彼こそがわたくしが選んだ最強の出場者、アレルさんですの」
五人が一斉に言った。
「「「「「……え?」」」」」
そして同時に間抜けな声を漏らす。
「はぁ? お前ら一体何を言ってやがんだ? こいつはうちの学院の生徒だぜ? 入学早々、セカンドグレードへの進級試験を満点で突破した逸材だ」
最初に気を取り直した赤の学院の学院長が、苛々した様子で言う。
「そちらこそ何を言っているのですか? 彼は紛れもなく青の学院の生徒です。入学初年度でセカンドグレードに進級したばかりか、すでに実技教員すら圧倒するほどの青魔法の使い手なのです」
そう反論したのは青の学院の学院長だ。
「ま、待て待て。彼こそが緑の学院からの出場者だ。ルーキーながら、三大飛行レースのすべてで優勝した五十年に一人の逸材。私自ら、特例でセカンドグレードに進級させたのだ」
緑の学院の学院長が割り込む。
「お、お主らこそ何を言っておるのじゃ? こやつは未だ誰も考えたことのない新型のゴーレムを開発した天才じゃぞ? 来年度はトップグレードに進級させて、研究室を与えてやる予定じゃ」
黄の学院の学院長も負けじと主張した。
「ど、どういうことですの……? わたくしの学院でも、彼はセカンドグレードに飛び級し、今や教員すら凌駕する白魔法の使い手として知られているんですのよ……?」
困惑気味に言うのは白の学院の学院長である。
「おいおいおい! じゃあ、何か? こいつは五つの学院に入学し、そのすべてで前代未聞の実績を上げてるとでも言うのかよ? はっ、バカバカしい! んなことあるわけねぇだろうが!」
赤の学院の学院長は鼻を鳴らして一蹴したが、別に何も間違っていない。
「いや、その通りだが?」
と、俺が彼の考えを否定した、そのときだった。
ズゴオオオオオオオオオオンッ!
どこからか轟音が響いてきて、地面が激しく揺れた。
音がした方角へ視線を向けると、競技場を取り囲む壁の向こうで、もうもうと土煙が上がっているのが見えた。
「一体何事だ?」
緑の学院の学院長が飛行魔法を使い、空へと飛んだ。
俺もそれを追って舞い上がる。
上空から見下ろせば、すぐに何が起こったのかが分かった。
学院の建物が一つ、倒壊していたのだ。
改築のための工事中だった建物だ。
しかし祭りの期間中は工事が休みだったはず。
「うわああああっ?」
「何だこいつはっ!?」
悲鳴が上がった。
瓦礫の中から何かが這い出してきたのである。
それはぶよぶよした巨大な塊だった。
全長は見えている部分だけでも二、三メートル。
まだ瓦礫に身体の一部が埋まっていることを考えると、もっと大きいかもしれない。
黒と紫と濃緑が混ざり合ったような禍々しい色合いで、表面を覆っている粘液が陽光を反射しててらてらと輝いている。
動いていることから、恐らく生物なのだろう。
「……スライムか」
俺は自分の推測を口にする。
隣で緑の学院の学院長が呻いた。
「あ、あれがスライムだと? キングスライムという、通常のスライムの何倍もの大きさのスライム種がいるとは聞いたことがあるが……しかし、あの色は……」
「何を食ったらあんなふうになるか知らないが、恐らく変色したのだろう」
スライムは何を食べているかで色が変化するのだ。
だがなぜ突然こんなところに?
突如として現れた巨大スライムを前に、泡を食って逃げ出す人々。
一方、腕に覚えのある魔法使いたちは、その流れに逆らってスライムへと近づいていくと、
「ファイアランス!」
「アイスストーム!」
「ウィンドカッター!」
攻撃魔法を放った。
「なにっ?」
「まるで効いていない?」
「くっ……」
巨大スライムは魔法の直撃を受けて平然としていた。
ダメージを受けた様子はない。
スライムは打撃への耐性が高いことで知られているが、魔法に対する耐性も侮れない。
「ふむ? しかしあれは効いていないというより、むしろ……」
「ぎゃあああああっ!?」
俺が違和感を口にする前に、一際大きな悲鳴が轟いた。
スライムが触手のようなものを伸ばして一番近くにいた魔法使いを捕まえたかと思うと、自らの身体へと引き摺り寄せたのだ。
その魔法使いは必死に暴れた。
彼を助けようと、他の魔法使いが触手を攻撃するが、やはりまるで効果がない。
「い、嫌だぁっ!? た、た、助け――」
そのままスライムの体内へと取り込まれてしまった。
……ふむ、どうやらあれはただのキングスライムではなさそうだ。
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