第13話 ちょっとおいたが過ぎると思いますよ?
「嫌だ」
俺がはっきりと突っ撥ねると、姉さんはぽかんと口を開けて間抜け面を晒した。
「な、な、何でなのだっ!? もう《無職》だからって馬鹿にされることはなくなるのだぞっ?」
「別に馬鹿にされたところで俺はまったく気にしない」
「頑張らなくてもよくなるのだぞ!? 毎日毎日遊んで暮らせるのだ!」
「そんな人生はつまらなさそうだ」
「す、スキルもないのに剣を覚えようなんて、そんな無駄な努力をする必要もないのだぞっ!?」
「無駄な努力? ふむ、ならば姉さんにはこれが無駄な努力の結果に見えるか?」
俺は剣を抜くと、軽く振るって虚空を斬った。
発生した〝飛刃〟が部屋の壁を引き裂き、巨大な切り傷ができあがる。
「っ!? えっ? ちょっ、何なのだ今のは!?」
「《剣神》のスキル〈飛刃〉。斬撃によって生み出された衝撃を飛ばす技だな」
「《剣神》のスキル!? アレル、お前は《無職》のはずだろうっ!?」
「正確には〈飛刃〉を再現した〝飛刃〟だがな。剣をとにかく速く振ることがコツだ。俺のように訓練すれば、こんなふうに別にスキルなど無くても同じことができる」
「いやできないだろう!?」
「現にできているだろう? ちなみに《無職》であっても魔法も使えるようになるぞ? こんなふうに」
俺が放った炎の槍が天井を貫いた。
「そ、そんな……剣だけでなく、魔法まで……?」
姉さんは上を向いたまま呆然としている。
「というわけで俺にこの国は必要ない。だから金輪際、兵士を仕向けてくるのはやめてくれ」
俺は姉さんに背を向けた。
とんだ寄り道になってしまったが、今度こそ実家に帰ろう。
「……
俺の足が勝手に止まった。
どうやら〈天命〉スキルを使ってきたらしい。
「ぜ、絶対に帰さないのだ! なぜならアレルはお姉ちゃんと結婚するのだからな!」
俺を説得するのは不可能と分かったのか、駄々をこねる子供のように訴えてくる姉さん。
俺のためにこの国を作ったなどと言っているが、結局のところ自分の願望を叶えるためなのだろう。
だがそんなこと知ったことではない。
俺は俺が生きたいように生きるだけだ。
「そんな気はさらさらない」
「ふふふっ! そんなこと言っていられるのは今の内なのだ!」
姉さんは息を吸い込み、大きな声で言った。
「
〈天命〉スキルで放たれた言葉が、俺にそれを強制させる。
気づけば姉さんの方へと近づいていた。
「そうだ! アレル! これからはお姉ちゃんがお前を養ってあげるのだ!」
姉さんも駆け寄ってくる。
「とりあえず誓いのちゅーを――ぶじゅっ!?」
唇を突き出しながら飛びついてこようとした姉さんの顔面へ、俺は蹴りを入れた。
靴の裏とキスをし、姉さんはまた吹っ飛んでいく。
「えっ? ちょっ、なんで!?」
「俺にそのスキルは効かない」
正確には効いていないわけではないのだが、人格を切り替えることで回避しているのだ。
「剣や魔法のことといい、お前は一体どうなっているのだ!?」
「姉さんがいう無駄な努力とやらのお陰だ」
俺は再び踵を返す。
「ま、
姉さんの声が途切れた。
「他にもそのスキルを無効化する方法はある。例えば今みたいに、声が伝わらないよう周囲の空気を取り除くとかな」
「っ!? ~~~っ!」
あのスキルの最大の欠点は、自分の声を相手に届かせなければ効果がないことだろう。
すなわち声が聞こえないようにしてしまえば簡単に封じることができる。
「~~~~~~っ! ~~~~~~っ!」
まだ何か言っているようだが放置し、俺は出ていこうとする。
「か、帰すわけにはいきません!」
しかしそこへ立ち塞がる者たちがいた。
「皇国八将軍が一人、《戦姫》リアナ!」
「同ジク、八将軍ガ一人、《死霊王》イグベルギア」
「だ、だ、《大聖女》のフィーナですっ! よ、よろしくお願いしますっ! あっ、わたしも八将軍の一人ですっ!」
「《海賊姫》のキナちゃんだよーん!」
どうやら四人とも八将軍とやららしい。
「ここから出て行きたければ、私たちを倒してからにしなさい!」
「そうか。では遠慮なく」
「っ!?」
◇ ◇ ◇
「何をやっているのだっ! 八将軍が四人もいながら逃げられてしまうなんて!」
玉座の上に乗っかってぴょんぴょん跳ねながら、女皇――アレルの姉、アステアは、癇癪を起した子供のように憤っていた。
「も、申し訳ありません、陛下……。我々が不甲斐ないばかりに……」
《戦姫》リアナは、がっくりと項垂れながら謝罪の言葉を口にする。
「……トイウカ、アノ男、ドウ考エテモ《無職》デハナイ……」
「だよね~、うちらが束になってかかっても敵わないとか、もはや笑うしかないっていうか、あははははっ!」
「何を笑っているのだっ!?」
アステアの怒声が爆発した。
「こうなったら地の果てまで追いおかけてでも、もう一度アレルを連れてくるのだ!」
「でも、陛下ぁ~、連れてきたところで〈天命〉が効かないんじゃ意味なくない?」
「ぐっ……あ、あれは何かの間違いなのだ! とにかく、すぐにでも後を追うのだ! 連れてくるまで帰ってくるのは許さないぞ!」
「「「は、はいっ……」」」
と、そのときである。
彼女たちの頭上から、笑い声が降ってきたのは。
「うふふふ……お姉ちゃんったら、ちょっとおいたが過ぎると思いますよ?」
天井を見上げたアステアの顔が真っ青になった。
「か、母ちゃん!?」
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