第43話 それは少々言い過ぎじゃのう

 さすがは魔界でも怖れられるグラトニースライム。

 プルルはめたっちの吸収能力を上回り、その体内から逆に吸収し返してしまったのだった。


『こ、これは一体どうしたことかっ……? エンペラーメタルスライムの身体の色が完全に変わってしまったぁぁぁっ! その姿はあの小さなスライムそのもの……っ!』


「め、めたっち……?」


 オーセンが恐る恐る近づいていく。

 するとプルルが触手を伸ばしてオーセンを掴み取った。


『これはオーセン調教師を吸収しようとしているのか!? オーセン調教師、すぐに離すよう命じるも、まったく言うことを聞く様子はない!』


「プルル。それは餌じゃないぞ。離してやれ」


 ぷるぷる!

 プルルがオーセンを放り捨てた。


『アレル調教師の言葉に即応じた! これはどちらの魔物なのかは明らかだ! なんとあの小さなスライム、吸収されてしまったように見えて、逆にめたっちの身体を乗っ取ってしまったぁぁぁっ! しかし果たしてそんなことが可能なのかっ? もしかしたら我々の未知のスライムなのかもしれない!』


「う、嘘ですッ……そんなはずはありませんっ! めたっち! 私ですよ! 忘れてしまったのですかっ?」


 オーセンは声を震わせ、今やプルルのものと化した元相棒の身体に訴えかける。


『オーセン調教師、どうやら未だその事実を受け入れられない様子! しかし無理もない! 調教師生命を賭け、すべての魔物を餌にして強化したスライムが、相手のものになってしまったのだ!』


「天罰が下ったんだ!」

「そうだ! 自業自得だ!」


 観客からの追い打ちめいた罵倒を聞いているのかいないのか、オーセンはよろめきながら再びプルルに近づいていった。

 しかし無情にも触手で打ち払われてしまう。


「プルル」


 ぷるぷる!


 俺が呼びかけると、愕然とするオーセンを置いてプルルがこっちに戻ってくる。


「また随分と大きくなったな」


 全長百メートル強。

 これでは連れて帰るのは難しい。

 オーセンはどうやってここまで連れてきたのか。


 俺はいつものようにプルルの無駄肉(?)を取ることにした。


「イレミネーション」


 消滅魔法が発動し、プルルの身体をごっそりと削り取る。

 全部消してしまわないよう気をつけないとな。


「よし、これで元通りだ」


 ぷるぷる!


 そこには直径三十センチほどの手ごろなサイズへ戻ったプルルの姿があった。


「め、めたっちぃぃぃぃぃっ!?」


 オーセンが絶叫した。

 だからもうめたっちじゃないぞ。


『い、一体何をしたのかっ? 突然強烈な閃光が弾けたかと思うと、あの巨体が小さくなってしまった! 先ほどから我々は何を見せられているのかっ? 不可解な出来事の連続で、頭の理解が追いつかない!』


「い、今のは魔法……?」

「んなわけねーだろ。調教師が魔法を使えるわけねーし」

「だが確かに魔力を感じたぞ! 俺は《魔術師》だから分かるんだ!」

「じゃあどんな魔法だっていうんだ?」

「それがあんなの見たことも聞いたこともないんだよ!」


『ともかくこれでアレル調教師の勝利だぁぁぁっ! ついにキングテイマーへの挑戦権を獲得! なんと初出場での快挙だぁぁぁっ! 我々はとんでもない歴史の転換点を目撃してしまっているのかもしれないっ!』




    ◇ ◇ ◇




『例年を遥かに越える盛り上がりを見せたキング・テイマー・カップ! それもいよいよ最後の戦い! ついに最強調教師を決めるときがきたぁぁぁっ!』


 トーナメントの決勝から一日のインターバルを置いた二日後。

 俺は再び五体の従魔を連れて巨大闘技場へとやってきていた。


『まずはこの調教師の入場だぁぁぁ! 今や魔物都市は彼の話題で持ち切り! 突如として現れた驚異の新人! なんとここまですべて圧倒的完勝で勝ち上がってきたぞ! S級ギルド〝モンスターランド〟所属っ、アレル調教師ぃぃぃぃぃぃっ!』


 割れんばかりの歓声に包まれるフィールドへと入場する。


『さあ、そしていよいよこの方の登場だ! 史上最強の名をほしいままにする最強のキングテイマーっ! その座に君臨すること、なんと驚異の四十年! まさに絶対的王者! まさにキングテイマーの中のキングテイマーっ! S級ギルド〝奈落〟所属っ、ルカ調教師ぃぃぃぃぃぃっ!』


 反対側から一人と五体が姿を現す。


 ルカ調教師はいかにも好々爺といった印象のじいさんだった。

 足が悪いのか、杖をつきながらこちらへと歩いてくる。


「ふむ……聞いていた通り、どれも悪魔か」


 キングテイマーの魔物についての情報は、この都市にいれば幾らでも耳に入ってきた。

 この大会を初めて制したときからずっと一貫して悪魔を使っているという。


 その見た目は様々だった。


 人間の女性のような姿の悪魔。

 獅子のような姿をした悪魔。

 昆虫のような姿をした悪魔。

 蜥蜴のような姿をした悪魔。

 幾つかの生物が混ざったキメラめいた姿の悪魔。


 共通点と言えば、漆黒の翼と尾が生えているくらいだろうか。

 悪魔というのは一つの種族ではあるのだが、その姿は一様ではなく、非常に多彩なのだ。

 大きさもバラバラだった。


『そう! キングテイマーが率いる魔物は、調教が非常に難しいとされる悪魔たちっ! それも神話級の魔物にも決して劣らない上級悪魔ばかりなのだぁぁぁぁっ!』


「ほっほっほ。それは少々言い過ぎじゃのう。並みの上級悪魔では、さすがに神話級の魔物には敵わぬよ」


 じいさんはどこか楽しげに、きっぱりと否定してから、


「しかしじゃ。この儂の持つスキルにかかれば、話は変わってくる。それすなわち――〈調強〉。《調教王》たる儂だけが使える最高のスキルじゃよ」

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