第42話 血も涙も無いやつめ
『何ということだっ! オーセン調教師、これまで育ててきた魔物たちをすべてキングスライムの餌にしてしまっていたぁぁぁっ!』
「血も涙も無いやつめ!」
「それでも魔物調教師かっ!」
罵声を浴びせられるオーセン。
しかし彼は歪んだ笑みを浮かべて叫び返す。
「ふふ、ふははははっ! 心配は要りませんよ! 彼らはこの子の――〝めたっち〟の中でずっと生き続けるのですから!」
そのエンペラーメタルスライムのめたっちとやらは、身体を伸ばしたり縮めたり、うねうねと不規則に形を変えたりと、謎の動きを見せている。
どうやらかなり自在に変形できるらしい。
「さあ、行きなさい! お前の力を神話級の魔物に見せてやるのです!」
その合図で巨塊がゆっくりと動き出す。
さすがに大きいだけあって機敏さには欠けるらしい。
『しかしこれで面白くなってきたぁぁぁっ! ただでさえメタルスライム種は、魔法も物理攻撃も効かない相手! それがこの大きさだ! 難攻不落と思われた神話級の魔物だが、果たしてこの新種のスライム相手にどう戦うのか!』
確かにベフィの物理攻撃は相性が悪そうだし、リビィが水で沈めても無駄だ。
フェニーの炎は効くのか?
頑張れば蒸発させることができるかもしれないが、果たしてメタルスライムの沸点はどれくらいだろうか?
まぁ予定通りに行こう。
最初からこの三体を出す気はなかった。
「神話級の魔物を喰らえば、さらにどれだけの力を得るのか……楽しみで仕方ありませんねぇ……」
ぷるぷるぷる!
「……は?」
オーセンが頓狂な声を漏らした。
神話級の魔物が出てくると思っていたのだろう。
だが実際にエンペラーメタルスライムの前に立ちはだかったのは、せいぜい直径三十センチほどしかない小さな同族だった。
「スライム?」
もちろんプルルだ。
黒と紫が混じり合った色をしているので大きいときは少しグロテスクだが、今は前述の通りの大きさだから可愛らしい。
「なんか気持ち悪いスライムが出てきたぞ……」
「なに、あの色……?」
何を言っているんだ。
どこからどう見ても可愛らしいだろう。
『こ、これは一体どういうことだっ!? アレル調教師、ただの頭数合わせのスライムを出してきぞっ! これは犠牲にして相手の強さを見極めるつもりかっ? しかし、この大きさの差! これでは一瞬で終わってしまいそうだ!』
どうやらプルルは戦力として数えられていなかったらしい。
「そんな小さなスライムを出してくるとは……私たちを愚弄するつもりですか……。いいでしょう! めたっち、そいつを餌にしてやりなさい!」
めたっちがプルルへと迫っていく。
しかしプルルは逃げるどころか自分から突撃していった。
『なんという勇敢なスライムだ! 考えてみれば、これまで悉く我々の常識を覆してきたのがアレル調教師だっ! まさかここでも予想を超えていくというのかっ!?』
――ぺちっ。
めたっちの表面に激突してそんな音が鳴った。
そしてプルルはめたっちの身体に呑み込まれてしまう。
『えー……。……ご、ごほん! や、やはり我々が予想した通りの結果となってしまったぁっ! アレル調教師、魔物を見殺しにして一体どういうつもりなのかっ!?』
観客席からブーイングが上がった。
「魔物を無駄死にさせるな!」
「遊んでんじゃねーよ!」
「早く神話級を出せ!」
遊んでいるつもりはないのだがな。
プルルを体内に取り込んだめたっちは、何事も無かったかのように前進を再開する。
「こっちくる」
「次はボクらの出番?」
「いやその必要はないぞ」
ベフィたちもプルルがやられたと思っているらしい。
だがあれは魔界のスライムだ。
この程度で死ぬはずはない。
それどころか、
「っ!? どうしたんです、めたっち?」
突然めたっちが動きを止めた。
「敵はもっと先ですよ? どうしたのですか?」
調教師の声には応えず、めたっちはぶるぶると巨体を震わせ始めた。
見た感じちょっと苦しそうだ。
「めたっち? 一体何があったのですっ? ――っ!? こ、これは……っ?」
オーセンがあることに気づいて目を剥いた。
めたっちの身体の一部。
ちょうど先ほどプルルを呑み込んだそこが、黒く変色してしまっていたのである。
まるで銀色に輝く金属が腐ってしまったかのようだ。
しかもその黒い部分が、毒が広がっていくようにどんどん大きくなっていた。
同時にめたっちの苦しみ方も激しくなっていく。
「くっ……めたっち、早くそれを吐き出してしまいなさい!」
オーセンが慌ててそう命じると、めたっちは器用にその黒い部分だけを分離させ、身体の外へと追いやった。
これで元の綺麗な銀色に戻った――と思いきや、
「なっ……?」
再び苦しそうに悶え出すめたっち。
見ると、再び身体の一部が黒く変色してしまっている。
そしてそれが拡大していく。
どうやら完全には除去し切れなかったらしい。
加えて分離したはずの黒い塊が勝手に動き始めたかと思うと、自分からめたっちへと飛びかかった。
そしてめたっちの身体へと入り込んでしまう。
気がつけば黒い部分は全体へと及んでいた。
さらにだんだんと濃くなっていき――
「プルル、よくやった」
ぷるぷるぷる!
俺の労いの言葉に嬉しそうに身体を揺らす巨大スライム。
そう、プルルは吸収されてしまったように見えて、実は内側からめたっちを乗っ取ってしまっていたのである。
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