第29話 完全に弱みを握られてる
武術科に戻ってきて一か月が経った。
幸いと言うべきか、レイラがやらかした最大のことはガオンさんの一件だった。
と言っても、僕の真似が酷すぎたせいで、明らかに周囲から変な目で見られるようになってしまったけれど。
クラス内でまだ友達と言えるほどの相手がいなかったこともあり、一応、被害は小さい。
……まぁ、一か月が経った今でもクラスに友達いないけどね。
そもそもEクラスはみんなギスギスしていた。
雰囲気も暗くて、休み時間でも教室では最低限の会話しか聞こえてこない。
最初に先生が「授業の難易度が高く、毎年少なくない脱落者が出ている」と脅したせいか、入学直後は元気だったグループさえ、今ではすっかり大人しくなってしまっていた。
「ダメだ……俺もう付いていけそうにねぇ……」
「俺も……やっぱこの学校は分不相応だったみたいだ……」
最近ではそんな声もちらほらと聞こえ始めてきている。
「……? まだ基礎中の基礎しかやってないと思うんだけど……?」
その夜、外から近づいてくる気配に僕は目を覚ました。
部屋の窓が微かに揺れる。
だけど窓が開くことはなかった。
「う~、何で開かないのっ?」
外から地団太が聞こえてくる。
やっぱり来たか。
僕はベッドで横になったままほくそ笑む。
レイラのことだ。
またそのうち入れ替わりを持ちかけてくるに違いないと思っていた。
だからあらかじめ窓に仕掛けを施しておいたのだ。
具体的には結界を張っておき、開閉が不可能にした。
そうでもしないと鍵をかけるくらいじゃ、レイラなら簡単に開けちゃうしね。
この部屋に入る場所は、入り口のドアと窓の二か所。
最も楽なのがこの窓を開けて入ってくる方法だ。
ここ一階だしね。
けれどレイラのことだ。
この程度で諦めるはずがない。
案の定、今度は部屋のドアの方へと回ってきた。
寮の入り口は施錠されているけれど、それを開けるくらいレイラには簡単だ。
「こっちも開かないっ!?」
もちろんドアの方も対策済みだ。
レイラが去っていく気配を感じながら、僕は再び眠りに落ちた。
「なぁ、おい、アーク。お前に手紙が来てたぞ?」
「僕に?」
翌朝、ランタが一通の手紙を持ってきた。
寮生への手紙は管理室に届き、それを各部屋の住人たちが回収することになっているのだ。
「まさかラブレターじゃねぇか?」
「そ、そんなことないと思うけど」
否定するも、ちょっとドキドキしてしまう。
なにせ僕は前世も含め、一度もラブレターなんてものを貰ったことがないのだ。
開封し、盗み見しようとするランタに警戒しながら、中身を読む。
『今日の夜、校舎の屋上で待ってます』
……文言だけ見たら、まさに告白のためのお手紙だ。
でもこれは違う。
僕には分かる。
だってこのきったない字。
どう見てもレイラの字だし。
昨日の失敗を受けて、僕を直接呼び出すことにしたようだ。
だけど普通に呼び出すと、警戒してやってこないかもしれない。
だから小癪にも自分の名前を書かずにラブレター風にしたのだろう。
リッカの入れ知恵かもしれない。
こんな手に引っかかるか。
せめてもっと綺麗な字で書けよ。
僕は無視することにした。
すると翌朝、再び手紙が届いて、
『今日の夜、校舎の屋上で待ってます。
※もし来なかったら女子寮での蛮行を言いふらすから覚悟してね?』
……僕は脅しに屈した。
「何でまたこんなことに……」
僕はレイラと入れ替わり、再び女子寮へと足を踏み入れていた。
寮内に設けられた談話室。
すでに大半の生徒が寝静まる中、僕はリッカと再会していた。
「久しぶりね。会いたかったわ」
「僕は会いたくなかったよ。……あの手紙の脅し文句、君が書いたでしょ?」
「そうよ。レイラと違って達筆でしょう?」
ドヤ顔を見せるリッカ。
めちゃくちゃどうでもいい。
「完全に弱みを握られてる……」
「でも本当は嬉しいんでしょ? またセレスティア王女に近づけて。また裸も見れるかもね?」
「そ、そんなこと思ってないから!」
「そうかしら?」
リッカは意地悪な顔で僕を見てくる。
「それで、一か月前と何か変わったこととかある?」
「そうね……大きいのは自主ゼミに入ったことかしら」
「自主ゼミ?」
「生徒が自発的に開催しているゼミのこと。王女様が主導しているもので、実戦的な演習を行っているそうよ」
「セレスティアさんが?」
「参加条件が厳しくて、最低でもSクラスの生徒しか入れない。一年生で参加できるのはレイラだけね」
放課後や休日、長期の休みなどを中心に、模擬戦闘や魔物の討伐などを行っているという。
Sクラスの中でも選りすぐりの人間しか参加できない中、レイラはセレスティアさん直々の推薦により参加が許されたのだとか。
「ということは、レイラの代わりに僕がそれに参加するってことか……」
「なんだか嬉しそうね?」
「そ、そんなことないよっ?」
なんか部活動みたいで、ほんの少し楽しそうと思ってしまっただけだ。
別にレスティアさんと一緒だからとか、そんなことは少しも思ってない。
ほ、ほんとだよ?
「あ、そうそう。それともう一つ」
ぽんと手を叩くリッカ。
何かを思い出したようだ。
「明日からテストがあるわ。中間テストね。頑張って」
レイラのやつ、だからまた僕と入れ替わったんだな……。
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