第30話 それよりノート貸してよ

 レイラのせいで全人格をフル稼働し、徹夜でテスト勉強をする羽目になってしまった。

 授業は前回の入れ替わり時の一週間しか受けていないので、ほぼゼロからの勉強だ。


「最初に応じておけば一、二日の余裕があったのに」

「うるさい。それよりノート貸してよ」


 レイラのノートは字が汚いので、リッカのノートを見せてもらうことにした。


「てか、あいつために何でここまでしないといけないんだ……」


 そんな疑問も抱きつつも、僕はどうにか無事に中間テストを切り抜けたのだった。


 いきなりだったので戸惑ったけれど、内容は至って簡単で、基礎的なものだったので助かった。

 むしろ余裕で満点を取れるレベル。


 ただ、替え玉で満点を取ってしまってはレイラのためにならない。

 何よりも癪だ。

 僕は適度に間違えておくことにしたのだった。


 ――したのだけど……。


「レイラさん、さすがですわ」

「筆記試験も学年トップだなんて」

「素晴らしいですの」


 テストのすぐ翌日、廊下に張り出された成績上位者の名前と得点を見ながら、口々に僕(レイラ)を賛辞する声が上がる。採点早い……。


 1位 レイラ 450点

 2位 ベルゼア 439点

 3位 リッカ 428点

 4位 ……


 500点満点だ。

 9割ぐらいにしておけば十分だろうと思ってたのに、みんな予想外に点数が取れてない。


 お陰でレイラが一位になってしまった。

 ちなみに三位にはリッカの名前がある。


 そのリッカが感心したように言う。


「まさか一夜漬けの武術科の生徒に負けるとは思わなかったわ」

「えっと、一つ聞きたいんだけどさ……。みんな、ちゃんとテスト勉強してるのかな? 僕、ワザと9割に抑えたんだけど……」

「もしかして殺されたい?」


 なぜかリッカから殺気が飛んできた。







 テストが終わったので、セレスティアさんの自主ゼミが再開するらしい。

 レイラと入れ替わったままの僕は、レイラとして参加することになった。


 集まったのは、セレスティアさんを筆頭に四年生が五人。

 三年生は寮で同室のアリサさんを含め、四人。

 二年生は二人で、一年生はレイラただ一人だった。


 全部で十二人。

 もちろん生徒は例外なくSクラスだった。


 男女比はちょうど半々。

 ……ただし僕のせいで男子が多い。


「今日は前回お伝えしていた通り、街の外で魔物相手に実戦を行います。いつも以上に気を引き締めて参加してください」

「「「はい!」」」


 セレスティアさんの言葉に、参加者たちが背筋を伸ばして力強く返事した。


「先生、よろしくお願いしますね」

「畏まりましたわ」


 一応、教官が一人同行してくれるらしい。

 四十代半ばぐらいの、いかにもベテランといった感じの女性だ。


 どうやら馬車で移動するらしい。

 さすが王女様主催の自主ゼミだ。


 学院を出発して王都を出ると、向かった先は近くに大規模な森を臨む草原地帯だった。


「この辺りがいいですね」


 僕たちは停車した馬車から降りる。

 森に棲息する魔物がこの辺りまで出てくることがあり、かといって森ほどには魔物と遭遇することはない。

 それゆえ実戦的な訓練には適した一帯のようだ。


「それではいつもの隊列で移動しましょう」

「「「はい!」」」


 ……いつもの隊列?


 もちろんレイラと入れ替わっている僕は知らない。

 戸惑っていると、アリサさんが厳しい口調で教えてくれた。


「何をしているのですか。あなたは私の隣でしょう」

「う、うん!」


 慌ててアリサさんの隣に並んだ。


 草原を進んでいく。

 すると最初に遭遇したのは、鋭い角を有する牛の魔物だ。


 全長は三メートルくらいあり、身体は真っ黒。

 筋骨隆々で、狂暴な闘牛をイメージしてもらえれば分かりやすいだろう。


「デビルバイソン……っ!」


 同行の教員が悲鳴を上げた。


「まさか、いきなりこんな魔物に遭遇するなんて……っ! 殿下、こちらに気づく前に――」

「いえ、問題ありません。一班は攻撃魔法を準備! 三班は土魔法で魔物の突進に備えてください!」


 戦闘回避を促そうとする教員を遮って、セレスティアさんが命令を下す。


「アイスエッジ!」

「ウォーターランス!」


 青魔法を中心とした攻撃魔法が何発か、デビルバイソンの巨体に直撃した。


「ブモオオオオッ!!」


 しかしダメージは少なく、デビルバイソンが興奮してこっちに突っ込んでくる。


「「「グランドウォール!」」」


 突進を止めたのは、激突の寸前に現れた分厚い土壁だ。

 それに思い切りぶつかり、デビルバイソンの巨体がひっくり返った。


「二班の皆さん、今です!」


 今度は赤魔法と緑魔法だ。

 至近距離で炎や風の刃を浴びせられて、デビルバイソンは苦痛の声を上げる。


 どうやら班ごとに役割が決まっているらしく、一班が青魔法で、二班が赤魔法と緑魔法、三班が黄魔法、という感じで分けているようだった。

 一班は遠距離攻撃や牽制に、二班は近距離攻撃に、そして三班は防御に特化しているのだろう。


 アリサさんは二班なので、たぶんレイラもこの二班に入っているのだと思う。

 ……出遅れたせいで何もしてないけど。


 残りが四班だろうか。

 たぶん白魔法や黒魔法の使い手たちだろう。


 やがてデビルバイソンは絶命し、動かなくなった。

 でも赤魔法を使ったせいで、全身はボロボロだ。

 デビルバイソンのお肉は結構美味しいので、あまり傷つけない方がいいのに。


 教員が感嘆の声を上げた。


「素晴らしい! さすがは王女殿下の自主ゼミですわ! デビルバイソンをこうも容易く倒してしまうなんて。見事な連携でございました」

「日頃の訓練の賜物です」


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