第13話 完全に男だと思っていた
「あいつ、女だったのか……」
五年越しに知った真実に、俺は驚いていた。
「悪い。完全に男だと思っていた」
「た、確かに当時の私は髪も短かったし、よく男の子みたいと言われてはいたが……!」
一方で今、俺の目の前にいるのは随分と大人びた美少女である。
一致しないのも無理はないだろう。
「ちょ、ちょっと待ってください、ライナ……!」
そこへ口を挟んできたのはリリアだ。
「《剣士》のあなたが負けた? 《無職》のこの少年に……? 冗談、ですよね?」
ライナは首を振った。
「驚くのも無理はない。だが事実だ」
「あ、でも、職業を与えられる前のことですよね? それなら納得です」
「そうではない。私はこの男より一年先に《剣士》になっていた。そして、すでに〈剣技・中級〉スキルを習得していた。にもかかわらず、私はただの《無職》であるこの男に敗北を喫したんだ」
「それって……あり得ない、ですよね……?」
普通ならな、とライナは小さく応えてから、
「だが、今はもうあのときのようにはいかない。私はこの五年で遥かに強くなった」
それは俺の方もだが。
「ちょうどいい機会だ。今さら《無職》の貴様を相手にするのも愚かしいが、しかし雪辱を果たさなければならない。貴様も未だ剣士の真似事をしているというのなら、これから私の相手をしろ」
それから俺たちは本拠地の地下にある訓練場へと赴いた。
俺はライナと向かい合う。
ライナが確認してくる。
「ルールはあのときと同じでいいな?」
「ああ、問題ないぞ」
勝負は加護が半分以下になるまで。
観客席まで設けられた広い訓練場だが、観客はたった一人だ。
リリアが「本当に《無職》と試合をする気ですか……?」という顔で、そこからこちらを見ている。
「では行くぞ」
「うむ、いつでも来い」
「ふんっ、余裕ぶっているのも今のうちだぞ?」
ライナが地面を蹴った。
「今でも貴様にこれを防げるか? 〈双刃斬り〉ッ!」
〈双刃斬り〉か。
あのとき完璧に対処されたというのに、あえてこれを出してくるとは。
……油断しているのか、それとも何か意図があるのか、
俺もまた〝双刃斬り〟で応じた。
「む?」
左右から迫るライナの刃を、俺は完璧に弾いたつもりだった。
だが彼女の刃はまったくと言っていいほどビクともしなかったのだ。
まるで鋼鉄の塊に刃を叩きつけたかのような感触。
咄嗟に飛び下がったが回避し切れず、俺は両肩をばっさり斬られてしまっていた。
三分の一近い加護が一気に失われてしまう。
「言っただろう? 私はこの五年で遥かに強くなった、と」
ライナは勝ち誇るように言う。
「今の私はもうただの《剣士》ではない。【上級職】の《剛剣士》だ」
《剛剣士》。
〈怪力〉などのスキルを習得でき、圧倒的なパワーが自慢の職業だったか。
何を思ったか、ライナは剣の柄から手を離した。
すると地面に激突して、ガンッ、という重々しい音が響き渡る。
なるほど。
あの剣、普通の重さではないな。
「この剣だが、特殊な金属でできていて、並の剣のざっと五倍の重量がある。〈怪力〉スキルを有する私でなければ、ここまでの速度で振るうことは不可能だ」
五倍の重さの剣と打ち合えばどうなるか。
答えは先ほどの現象だ。
確実に打ち負ける。
「つまり前回のような手は使えないということか」
「そういうことだ」
「だがよかったのか? そんなに簡単に種明かしをして」
「問題ない。むしろ、これくらいのハンデは必要だろう。念のため言っておくが、今見た通り、だからと言って剣速が落ちるというわけではない。それどころか【基本職】の《剣士》に比べればずっと速い」
ライナは再び斬り掛かってきた。
斬撃を受け止めることはできない。
先ほどのように打ち負けるか、下手をすればこちらの剣自体が折れてしまうだろう。
「ふむ。しかし、
「ほざけ! もらった!」
ライナの剣が俺を斬り裂く。
が、そこにすでに俺はいない。
「なにっ?」
「後ろだ」
俺の剣がライナの背中を叩く。
「くっ……いつの間に背後に……!? 確かに私の剣は貴様を捉えたはず……!」
「あれは〝残像〟だ」
キングオーク相手にも使ったが、《剣姫》のスキル〈残像〉の模倣である。
〈縮地〉ができないと使えないので、〈縮地〉の応用スキルとも言える。
《剣姫》の強みの一つが速さだ。
剣士系最速クラスとも言われている《細剣士》にも、勝るとも劣らない。
「ば、馬鹿な……っ! 一体、どうすれば真似ができるんだ、貴様……っ!?」
「簡単に言うと、めちゃくちゃ速く動けばいい」
「……は? そんなこと、できるわけが……」
俺は再び〝残像〟を残し、死角からライナに刺突を繰り出す。
「同じ手に二度もかかるか!」
しかし今度は惑わされず、俺に反応して反撃してきた。
「それも〝残像〟だぞ」
「なっ」
本物の俺は彼女の肩を斬り裂いた。
「ふむ? ほとんど加護が減っていない、か」
「……ご、《剛剣士》には〈頑丈〉のスキルもある! 貴様の斬撃では大したダメージにはならない!」
加護というのは、もしそれがなければ受けていたただろう傷の深さに応じて消費される。
ゆえに〈頑丈〉スキルに身を護られているライナは、加護がなかなか減らないのだ。
普通に攻撃していると、あと十発くらいは当てないといけないか。
「逆に一撃でもまともに当てれば私の勝ちだ!」
ライナは懲りずに斬り掛かってくる。
俺は彼女の剣を受け止め――
「馬鹿め! このまま剣ごと貴様を斬り裂い――っ!?」
反撃スキル〝オブテインカウンター〟。
彼女の斬撃に逆らわず、それどころかその威力を吸収。
さらには身を瞬転させて遠心力をも上乗せし、俺は最強最速のカウンターを叩き込んだのだった。
「がっ!?」
さすがの《剛剣士》でもこれには大ダメージを受け、彼女の加護が半分を切った。
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