第18話 良いものを見せてもらった

 最初のA級剣士を皮切りに、A級剣士との連戦が始まった。


 二人目は《双剣士》。

 そして三人目は《聖騎士》だった。


《双剣士》は〈二刀流〉スキルを使える剣士系の【上級職】。

 手数の多さに少々苦戦させられたが、無傷で撃破。


 続く《聖騎士》は剣士系ではなく騎士系の【上級職】で、〈加護強化〉というスキルのお陰で普通の人間よりも加護の量が多いのが最大の特徴だろう。

 そのため試合のルール上、厄介な相手である。

 まぁ無傷で倒せたが。


 しかし〈加護強化〉か……。

 このスキルもどうにかして習得できないものだろうか?


「す、すごいですアレルさん! あと一人ですよ! まさか九人抜きしてしまうなんて……! このまま最後の一人も倒しちゃってください!」


 舞台の脇からリリアの声援が飛んでくる。


「お、おいおい……このままいくと、マジでドラゴンファングが勝っちまうぞ……」

「そうなったらどんだけの高額配当だ……」

「くそっ、俺もそっちに賭けておけばよかったぜ……!」

「いやまだ分からねぇぞ。見ろよ。次にブラックブレードから出てくるのは、A級でもトップクラスの男だ」


『それでは〝ブラックブレード〟から十人目の剣士が登場です! 《剣豪》マサムネッ!』


 最後の対戦相手が舞台に上がってくる。

 あまり見たことのない衣装に身を包んだ、壮年の男である。


「どうやら拙者が最後の砦のようでござるな」


 腰に差している剣は、一般的に利用されている直刀ではなく、刀身が僅かに婉曲していた。

 また剣幅もレイピアのように細い。


「刀、か」

「左様でござる。拙者の職業剣豪は、東方の剣士である《侍》の【上級職】でござるよ」


 さすがは剣の都市だ。

 東方剣士までいるのか。


「ふむ。これはなかなか面白そうな相手だ」


 俺は剣を構える。

 だが相手は鞘から剣を抜くことなく、やや前のめり気味に腰を落としただけだった。


「抜かないのか?」

「これが拙者の構えでござる」


 ……なるほど。

 まったく隙がない。

 下手に踏み込むと、相手の剣が先に俺を斬り裂いている。

 鍛え上げた俺の〝先読み〟能力がそう警鐘を鳴らしていた。


「……さすがでござるな。生半可な剣ではお主に勝つことはできぬと判断し、必殺スキルをお見舞いするつもりでござったが、なかなかどうして鋭い」


 必殺スキルか。

 恐らくあの鞘を納めた状況から放てる技なのだろう。

 剣を抜かないなど普通の感覚ではこちらを舐めているとしか思えず、油断して踏み込んだらバッサリとやられるというわけか。

 初見だと非常に対処が困難なタイプのスキルだ。


 だがこのままではせっかくのスキルを見ることができない。

 それは残念だな。


 俺は相手に近づいていく。


「分かった上で自ら死地に飛び込んでくるでござるか」


 そして彼我の距離が二メートルになったときだった。

 今まで静かに抑え込まれていた殺気が、東方剣士の全身から噴き上がる。

 刹那に剣が閃き、俺は両断され――――る姿を幻視した。


 ただしそれは俺の〝残像〟だ。

 俺は〝残像〟を正面に残して、横合いから東方剣士へと斬り掛かっていた。


「甘いでござるよ」

「っ!」


 しかし東方剣士は〝残像〟に惑わされることなく、本物の俺をしっかりと捉えていた。

 その証拠に、まだ剣は鞘から抜かれていない。


「――〈居合斬り・極〉」


《大剣豪》の必殺スキルが繰り出される。

 神速の斬撃は――俺の鼻先僅か数ミリのところを掠めていった。

 もちろん剣の達人である相手が距離感を見誤ったわけではない。

 俺が間合いを見極め、ギリギリ届かない距離へ寸前で下がったためだ。


「まさか、拙者の剣を完璧に見切ったというのでござるか……っ!?」

「確かに速い。だが生憎、速い剣は母さんのお陰で見慣れているんでな」


 ただし、どのような技であるか、すでに〝先読み〟できていたからこその芸当だ。

 先ほどの幻視がそれを可能にした。


 あの瞬間、スキルは発動されなかったが、その気配を見せただけで俺には十分だった。

 俺の〝残像〟に引っ掛からなかったのはさすがだが、あの時点ですでに彼の必殺スキルは不発に終わることが決まっていたのだ。


「だが良いものを見せてもらった。その礼として、こちらも一つ、必殺〝スキル〟を見せてやろう」


 ――〝ピアシングテンペスト〟


 恐らく彼には無数の閃光が瞬いたかのように見えたに違いない。


《剣姫》の必殺スキル、〈ピアシングテンペスト〉。

 雷光めいた速さの刺突を、まさに嵐のごとく連続して繰り出す。

 剣を振り抜いた直後に、回避できるはずもなかった。


 全身あらゆる箇所に刺突が叩き込まれ、一瞬にして加護がすべて吹き飛ぶ。


『しょ、勝者、アレル! これによりブラックブレードは全選手が敗退となりましたので、ドラゴンファングの勝利です!』


 その宣言に、会場が凄まじいどよめきに包まれた。


「A級でもトップクラスの《剣豪》に勝っちまいやがった……」

「しかも十人抜きだと……!?」

「ブラックブレードのクソが! あんなギルドに負けるなんて! 恥晒しが!」

「今回どれだけ賭けたと思ったんだよ! 金返せぇぇぇっ!」


 純粋に驚愕している者もいれば、大半の人がブラックブレードに賭けていたこともあって、あちこちから憤りの声も上がっている。


「やったーっ! 凄いですよ、アレルさん!」


 リリアが喜びを露わに飛び付いてきた。

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