第17話 なんでA級剣士を圧倒してやがるんだ

「おい、あいつって本当に《無職》なんだよな……?」

「そ、そうだろ? 普通、大会で職業を偽ることなんてねぇはずだし……」

「だったらよ――」



「――なんでA級剣士を圧倒してやがるんだ!?」



「ぐっ!?」


 俺の剣が相手の盾の護りを避けて太腿を斬り裂き、加護を奪う。


「クソッタレが!」


 相手はヤケクソ気味に反撃してきたが、素早く後ろに下がっていた俺の目の前で斬撃が空を切る。


「ふざけるな!? てめぇが《無職》なわけねぇだろ!?」


 そう怒号を轟かせた彼は《盾剣士》。

 片手に盾を装備しているため、攻守に優れたバランスの良い戦い方ができる職業だ。

 A級剣士らしく、その盾の護りを掻い潜ってダメージを与えるのはなかなか至難の業である。


「お陰で圧倒、とまではいかない。急所に当たらないせいで、少しずつ加護を削っていくことしかできていないからな」

「それがすでにおかしいっつってんだ! そもそもまったくの無傷でここまで勝ち抜いてくるなんて、《無職》じゃなくてもできねぇんだよ!」


 彼が喚く通り、俺はB級剣士を六人連続で退け、今は七人目との対戦となっていた。

 幸い今まで一度も攻撃を喰らってはいないため、俺の加護はマックス状態を保ち続けている。


「そんなことを言われても困る。俺は正真正銘の《無職》だ」

「じゃあ何で〈剣技・上級〉スキルを習得してるはずの俺と、まともに斬り合えてんだ!?」

「そんなこと決まっている。剣の訓練をしたからだ。――努力、と言い換えてもいい」

「その努力でどうにもならねぇのが職業やスキルってものなんだよ!」


 彼は怒り心頭といった様子で斬り掛かってくる。

 だがそう見せかけて、


「かかったな! 〈シールドバッシュ〉!」


 盾を叩きつけようとしてきた。


 だがその動きは読めている。


〝先読み〟。

 直感的に次の一手を予測することで、相手の初動より早く動き出す。

 習得に最も苦労した《剣姫》スキルの一つだ。


 俺はバックステップで盾攻撃を回避すると、その盾の横ふちへ蹴りを見舞った。


「なっ!?」


《盾剣士》にとって生命線とも言える盾が、手から離れて吹っ飛んでいく。


「ふむ、これで厄介な盾をどうにかできたぞ」

「て、てめぇ、今の蹴りは……」

「さっき戦った《剣拳士》の見よう見真似だが?」


 まだまだ練習が足りないせいで、拙いものだったがな。


 もう少し足を高く上げるべきだったか。

 角度も調整が必要だな。

 ふむ、こんな感じか?


「が……っ!?」


 相手の脇腹に俺の足が突き刺さった。

 盾を失って戦意喪失したのか、呆然とその場に突っ立っていたので練習台になってもらったのだ。

 狙い通り良いところに入ったようで、ごっそりと加護が減少する。


「み、見よう見真似だと……っ!? そんなことができてたまるか!」

「確かにスキルによっては練習が必要だが、物によっては初見でもある程度は真似ることができると思うぞ?」


 俺は相手が落した盾を拾うと、それを構えた。


「こんな感じか?」

「な……」


 そのまま距離を詰めていく。


「た、盾を簡単に扱えると思うなよ……っ!」


 盾を奪われた《盾剣士》が斬り掛かってきた。


「〝受け流し〟」

「っ!?」


 先ほど何度か目の前で見せられた《盾剣士》のスキルをやってみる。

 盾の表面を滑るようにして剣が逸れた。

 さらにこの技は相手の体勢を崩す効果もあって、そうしてできた隙を見逃さず、反撃を見舞う。


「ば、馬鹿なっ……」


 またしても加護を減らされ、慌てて距離を取ろうとする《盾剣士》。

 しかしそうはさせない。


 俺は〝縮地〟で彼我の距離を詰めると、さらにはその勢いのまま突進していく。

 盾を叩きつけた。


「〝シールドバッシュ〟」

「ぶっ!?」


 強烈な盾の一撃を喰らい、大きく吹っ飛んでいく。


 ふむ。

 思った通り、この技は〝縮地〟と相性がいいな。

 全力疾走からそのままぶつかっていける。


「……まさか、俺の、スキルまで……」


 自分の技でトドメを刺され、ついに相手の加護がすべて喪失した。


『勝者、アレル……っ!』


 いつの間にか静まり返っていた会場に勝者の名が響く。


「……あいつ、A級剣士まで倒しちまいやがったぜ……?」

「しかもまだ一撃も喰らってねぇなんて……」

「ほ、本当に《無職》なのかよ……?」


 そんな声があちこちから聞こえてきた。


「いやいや、《無職》とかどう考えても嘘だろ!? 絶対に偽ってるぜ!」

「そんなマネ、許していいのかよ!? 運営は何やってんだ!」

「そうだそうだ! 失格させろ!」


 静寂を斬り裂くように、そんな怒号も上がり始める。


「……けどよ、《無職》じゃなかったとして……じゃあ、あいつの職業は何なんだよ……っ?」

「「「……」」」


 だから俺は《無職》だと言ってるだろう。

 大会の直前に《鑑定士》に見てもらったばかりだしな。


 そうした会場の雰囲気を察して、大会の運営者も動いたようで、


『え? あ、はいっ。……えーっ、ただ今、大会運営からの判断で、アレル選手の試合直前の鑑定書をこの場にて公開させていただくことになりました! アレル選手、よろしいですね?』


「構わない」


 進行役が俺の鑑定書を広げて掲げた。

 観客席からでは見えにくいだろうが、それなりの視力があればそこに書いてある職業を読み取れるだろう。


「む、《無職》……本当に無職だぞ……?」

「マジかよ……」


 当然だ。

 そもそもわざわざ自分の職業を《無職》と偽る意味なんてないことくらい、少し考えれば分かるだろう。

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