第16話 勝つ気がねぇのかよ
『それでは第一試合を開始します! 〝ブラックブレード〟から《細剣士》のギオ! 対するは〝ドラゴンファング〟の……えっ? ……む、《無職》のアレル……っ!』
《無職》の部分を口にする際、一瞬つっかえた。
会場がシンとなる。
「……む、《無職》?」
「今、《無職》って言わなかったか? 俺の聴き間違え?」
「いや、俺にもそう聴こえたぞ」
少しずつざわめきが広がっていき、やがて、
「あいつ、知ってるぞ! うちのギルドに加入希望者で来てた!」
「俺も知ってる! 受付に門前払いされてたぞ!」
「ってことは、本当に《無職》?」
「ぶっははははは! マジかよ! ドラゴンファングが《無職》を出してきやがった!」
「幾ら人員が足りないからって、《無職》をギルドの一員にするなんてよ!」
会場中で笑い声が弾けた。
いや笑い声だけではない。
「勝つ気がねぇのかよ、バカヤロウ!」
「だったら最初から試合なんか組むんじゃねぇよ! ブラックブレードとやりたいギルドなんて他にも幾らでもあるんだよ!」
「ここは剣士の聖地だ! 《無職》は引っ込んでやがれ!」
そんな怒号が響き渡る。
『も、物を投げないでください! 大変危険です!』
舞台に物まで飛んできた。
「や、やっぱりこうなりましたか……」
「ふむ。なかなかの大反響だな」
「よくそんなに落ち着いてられますね!?」
「なに、これから黙らせてやればいいだけだ」
先鋒の俺は舞台へと上がる。
対戦相手も舞台に上がってきた。
いかにも俊敏そうな小柄で細身の男だ。
年齢は二十歳くらいだろうか。
武器はレイピア。
確か《細剣士》のギオ、と紹介されていたっけな。
「……まさか《無職》が相手とはね。随分と舐められたもんだ」
「別に舐めているつもりはないのだが」
背後からヤケクソ気味のリリアの声が聞こえてくる。
「アレルさん! 彼はB級剣士です! ノーダメージで倒しちゃってください!」
相手の加護をすべて奪えば勝ちとなり、勝ち抜き方式で全選手を倒したギルドの勝利。
こちらは三人で十人を倒さなければならないのだが、勝ってもすぐに次の試合が始まるので、加護が回復するのを待ってはくれない。
ゆえに、できるだけ加護を減らさずに勝ち抜いていく必要がある。
リリアの言葉に、ギオは鼻を鳴らした。
「はっ、笑わせてくれる。ノーダメージで倒すのは僕の方だ」
そして試合が始まった。
「一撃で終わらせてあげるよ」
次の瞬間、ギオの姿が掻き消えて俺の目の前に現れる。
〈縮地〉か。
さらにそこから刺突。
俺の心臓を完璧に狙った一撃だ。
〈急所突き〉だろう。
一瞬で相手との距離を詰め、急所を突いて仕留める。
急所を貫かれると下手をすれば加護が一気に全損するのだが、〈縮地〉からのそれを回避するのはかなり難しい。
これこそが剣士系最速とも言われる《細剣士》の真骨頂、最強のスキルコンボだ。
ギオのレイピアの剣先は真っ直ぐ心臓を――
「呆気なかったな」
「その台詞はまだ早いぞ?」
「なにっ!?」
――貫いたが、それは俺の〝残像〟だった。
本物の俺はギオの背後。
お返しとばかりに、背中側から相手の心臓を狙って突きを放つ。
〝急所突き〟だ。
「ぐっ!」
さすがと言うべきか、ギオは咄嗟に身体を捻ることで心臓への直撃は避けた。
それでも肩を貫かれ、加護が大きく減る。
「馬鹿な!? 今のは〈残像〉か!? 《細剣士》や《幻剣士》にしか使えないはずのスキルを、なぜ《無職》のお前が……っ!? しかも〈急所突き〉まで使うとは……!」
ギオは驚愕しつつも、すぐに気持ちを切り替えたようで、
「だが〈残像〉なら僕も得意とするところ!」
ギオの姿が二つに分離する。
ふむ。
なかなか見事な〈残像〉だな。
どちらが本物かまったく分からない。
そのうちの一体が刺突を放ってくる。
しかし貫いた心臓は、またしても俺の〝残像〟。
だがギオはそれを読んでいたようで、
「同じ手には乗らない! 本物はこっちだろう! ……なに!?」
「残念、それも〝残像〟だ」
「がっ!」
再びギオの加護がごっそりと減った。
あと一撃、二撃くらいか。
「同時に二体の〈残像〉だと!? し、しかしそれくらい僕にだって……!」
今度は三つに分離してギオが突進してきた。
「誰が二体までしかできないと言った?」
「なんだとっ!?」
俺は合計五体もの〝残像〟を生み出してギオを迎え撃つ。
三対六の戦いなど、結果は明白。
ギオの刺突はまたしても俺を捉えられず、逆に俺の剣はギオの本体を斬り裂いた。
ついにギオの加護がすべて失われる。
『しょ、勝者、アレル!』
試合終了が宣言された。
「ば、馬鹿な……こんなことが……」
舞台の上で膝を突き、愕然と唇を戦慄かせるギオに、俺は告げる。
「一つ、訂正しておく。〈残像〉スキルを習得する剣士系職業は他にもあるぞ」
「っ!?」
「《剣姫》だ」
ギオはハッとしたように目を見開く。
「け、剣士系【最上級職】の《剣姫》だと……? だ、だがそれは女性しか……」
彼の言う通り、《剣姫》になれるのは女性だけ。
だが俺には関係ない。
「なにせ、俺はただの《無職》だからな」
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