第33話 今度の今度こそ本気を出すときが来たようだな

「速いっ!」

「あの大きさで!?」


 巨大ゴーレムが地面を蹴り、地響きを伴いながらアルファに迫る。

 その予想外の俊敏さに、観客が驚きの声を上げた。


 剛腕が唸り、アルファを殴りつけんとする。

 だがアルファはひらりとそれを躱すと、逆に巨大ゴーレムの腕を掴んで――


「なっ!?」


 ――ぶん投げた。


 巨大ゴーレムが宙を舞い、背中から思いきり地面へと叩きつけられる。

 その衝撃で会場が大きく揺れ、あちこちで悲鳴が響く。


「マジかよ!? 投げ飛ばしたぞ!?」

「どうやって!?」


 赤子が大男をひっくり返したようなもの。

 観客が驚愕するのも無理はない。


「……が、がはははっ! それくらいで倒したと思うなよ!」


 ログウェルは引き攣ったように笑いながら、すぐに巨大ゴーレムを置き上がらせようとする。

 いや、転がった状態からその巨体を回転させた。


「とくと見よ! 必殺、大車輪ッ!」


 巨大ゴーレムの足がアルファを蹴りつけた。

 咄嗟にガードしたアルファだが、その大質量の一撃には耐え切れず、大きく吹き飛ばされて会場端の壁へと激突しそうになる。


「がははははっ! 自慢のゴーレムも、さすがにこれで終わ――なにっ?」


 だがアルファはぶつかる寸前に身体を捻って、壁へと着地した。

 そして壁を蹴り、まだ地面に転がっている巨大ゴーレム目がけて全力で跳躍。

 巨大ゴーレムの胴部へ渾身のドロップキックをお見舞いした。


 ズガァァァァァンッ!


「のおおおおおおおっ!?」


 これにはログウェルも頭を抱えて叫んだ。

 巨大ゴーレムが胴体から真っ二つに割れのだ。


 一方のアルファは無傷で着地を決めている。


「ふむ。これで決着といったところか?」

「ま、まだだ! まだに決まっているだろう!」


 ログウェルが身体を戦慄かせながら続行を告げた。


「どうやらこの私が今度の今度こそ本気を出すときが来たようだな!」


 その言葉に、観客が「ほんとかよ……」「嘘くせ……」「そんなに見栄を張らなくても……」などと呆れている。


 しかしそれは決してはったりなどではなかったらしい。

 次の瞬間、地面から雨後の筍のように大量のゴーレムが姿を現した。

 全部で三十体はいるだろう。


「諸君らは一度に複数のゴーレムを扱えば、その分、一体一体が弱くなってしまうと思っているだろう! だが私の場合、それは当てはまらない!」


 そう自信満々に言う通り、ログウェルの生み出したゴーレムたちには、各々にしっかりとした魔力が宿っていた。

 合わせるとかなりの魔力量だ。


「私の強みは、この何十体ものゴーレムを一度に生み出せる膨大な魔力! そして、それでも各々を同時に、しかも自在に操作できる並行処理能力だ! 今日は特別大サービスだ! 世界最高のゴーレム使いの技を見るがいい!」


 直後、三十体のゴーレムが一斉にアルファへと躍り掛かってきた。


「ふむ。ならばこちらも全力を出すとしよう」

「なにっ?」


 シュコシュコン!


 そんな小気味いい音を立てながら、アルファの背中から身体の中に格納していた二本の剣が飛び出した。

 腕を交差させるようにしてそれを掴んだアルファは、迫りくるゴーレムの群れを前にして二刀流で構える。


「ゴーレムが剣だと!? がはははっ! しかしそんなもので何ができるというのだ!」


 最初の二体がアルファに殴りかかった。

 アルファは二本の剣を振るう。


 シュババババッ!

 ボトボトボトボトボトッ!


 二体のゴーレムはバラバラに斬り刻まれ、瓦礫と化して地面を転がった。


「何だと!? 今、何をした!?」

「普通に斬っただけだが?」

「まさか、今の一瞬で斬ったというのか!?」


 そんなに速くはなかったのだが、どうやら見えなかったようだ。

 まぁ魔法使いだしな。


 俺は徒手空拳より、剣で戦う方がいい。

 なにせこれでも母さんを倒した世界最強の剣士だからな。


 自分が操るゴーレムも、同じように剣を持たせてみた方がしっくりきたのだ。

 ただし性能的な限界もあって、剣の速さも重さも精度もまだまだだ。

 なので少々もどかしくもあるのだが。


 次々と四方八方から襲いくる敵のゴーレムを、アルファは二本の剣を縦横無尽に振るって斬り捨てていく。


 相手は人間と違って痛覚を持たないゴーレムだ。

 腕や足を一本斬り落とす程度では動きを止めることはないので、ほとんどバラバラになるまで斬り刻んでいくしかない。


 一方、ログウェルは自身のゴーレムが破壊されるたび、新たなゴーレムを作り出していた。

 そのため、すでに最初にいた三十体以上は倒しているはずだが、ほとんど減っていない。


 一見するとこれではキリが無いように見えるが、


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ば、馬鹿な……この私の魔力が……」


 ログウェルは息を荒らげ、顔は土気色になっていた。

 さすがにこれだけのゴーレムを使い続ければ、魔力が枯渇してもおかしくない。


 ちなみに俺の魔力はまだ一割も減っていない。

 アルファは金属部品を組み合わせて作ってあるため、普通のゴーレムと違って維持に魔力が一切必要なく、非常に省エネなのである。


 やがてログウェルに限界がきたようで、ついに新たなゴーレムを作り出せなくなった。


 そしてアルファが最後の一体を斬り倒し。


「「「うおおおおおおおおおおおおっ!」」」


 大歓声が耳をつんざいた。


「すげぇ! あいつ生徒いびりのログウェルに勝ちやがったぞ!」

「なんて日だ!」

「てか、あんなゴーレムありなのかよ!?」


 これで十分なアピールになったはずだ。

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