第10話 元凶を叩いた方が早いよね

 魔王がいるという魔王城は、どうやら西にあるらしい。

 そんなざっくりとした情報をもとに、僕たちは西へ西へと向かった。


 途中で幾つもの町や村、都市を魔王軍から救った。

 やっぱり西に行くほど大変な状態になっているらしい。


 これは本当に早く魔王を倒さないといけないみたいだ。

 かつては英雄たちが討伐したというけど、今はいないんだろうか?


「貴様、本気で魔王のところまで行くつもりなのか?」

「ん? そうだが?」

「貴様一人ならともかく、子供たちもいるんだぞ?」

「だからこそ、だ。ちょうどいい訓練になると思う」

「訓練って……」


 お母さんが呆れたような顔をする。


 確かにお父さんの言ってることはめちゃくちゃだけど、でも僕たちで魔王を倒せるなら、倒した方がいいのは確かだ。

 放っておくと被害は増え続けるだろう。


「楽しみ! ね、アーク!」

「う、うん」


 だいたいレイラがやる気満々だ。

 これはもう僕とお母さんが何を言ってもどうしようもない。


 そんな中、僕たちはとある街へと立ち寄った。

 いや、都市と言った方がいいかもしれない。


 実際この辺り一帯を統治している国の王都らしく、街は立派な城壁に守られ、相応の兵力を有していた。


 それでも僕たちがやってきたとき、都市はもはや陥落寸前だった。

 城門を破られて魔物の侵入を許し、決死の抵抗を続けている。


 僕たちはその様子を城壁の上から眺めていた。


「ねぇ、パパ、兵隊さん同士が戦ってるよ?」

「ふむ、どうやら死んでアンデッドに変えられてしまったみたいだな」


 それは凄惨な光景だった。

 さっきまで仲間だったはずの相手を、今度は敵として戦わなければならないのだ。

 しかも味方が死ぬたびに、どんどん敵の戦力が増えていく。


「戦場が散らばっているな……。手分けをしよう。二人とも大丈夫か?」

「うん!」

「……うん」

「よし、じゃあ俺とライナは城門から中心部にあるあの城へと向かっていく。アークは右から、レイラは左から城を目指してくれ」


 最も戦いが激しいのは、破られた城門から真っ直ぐ伸びる大通りだ。

 とはいえ、戦場はそこから左右にまで及んでいる。


 一人で大丈夫なのかと心配そうにするお母さんに「大丈夫だよ」と伝えて、僕とレイラは城壁から飛び降りた。


 レイラと別れ、僕は右側のルートからお城を目指す。


「オ~ア~」


 すぐにアンデッドが襲い掛かってきた。

 見たところ一般人だ。

 たぶん逃げ遅れて魔物に殺され、アンデッド化させられたのだろう。


「ホーリーレイ」

「アアアッ!?」


 アンデッドには浄化魔法が効く。

 光りを浴びたアンデッドは、その場に崩れ落ちて大人しくなった。


 その後も次々と迫りくるアンデッドに、僕は浄化の光を見舞っていった。


「な、何だ……? アンデッドが動かなくなった……?」

「って、子供!? おい、危ないぞ!」

「いや、よく見ろ! あの子供がアンデッドに浄化魔法を使っているんだ!」


 兵士さんたちが僕を見て驚いている。


「グルアアアッ!」

「あっ、危ねぇ!」


 アンデッドを浄化していく僕の存在を脅威と考えたのか、四本腕を持つ大きな熊の魔物が飛びかかってきた。

 まぁ無駄だけど。


 ザンッ!


「~~~~~~ッ!?」


 僕の放った斬撃が熊の身体を真っ二つに両断する。


「え……?」

「今、何が起こったんだ……?」


 目を丸くしている兵士さんたち。


 うん、この辺りのアンデッドはあらかた片付いたかな。

 後は兵士さんたちに任せ、先へと進むことにした。


「オ~ア~」

「ウ~ア~」

「うわ、多いな……まとめて倒しちゃうか。ホーリークロス」


 街の中は本当にアンデッドだらけだ。

 魔物に殺された人は例外なくアンデッド化しているらしい。


 死霊術師がいるはずなんだけど……近くに気配はまったく感じられないな。

 遠くから操っているのだろうか。


「何だろう……微かに魔力の流れを感じる……?」


 集中して感覚を研ぎ澄ませてみる。

 すると段々と魔力の流れが分かってきた。


「……お城の方からだ」


 それはちょうど僕が向かおうとしている方角だった。


「元凶を叩いた方が早いよね」


 そう判断した僕は、アンデッドを無視してお城へと疾走する。


 近づけば近づくほど、はっきりと分かるようになっていた。

 都市中のアンデッドを操る元凶は、お城の中にいる。


 しかも多分、これだけのアンデッドをたった一人で操っている。

 なおかつ遠隔ともなれば、相当な死霊術の使い手に違いない。


 僕は警戒を強めつつ、壁を飛び越えてお城の中へと侵入した。


 中庭では激しい戦闘が繰り広げられていた。


「オオオオオオオオオオッ!」


 雄叫びを轟かせながら、兵士たちを薙ぎ払うのは色んな魔物を融合させたような怪物。

 キメラとかいうやつだろう。

 加勢しようか一瞬迷ったけど、僕は〝隠密〟状態で彼らの脇を通り過ぎる。


 すでに城内までアンデッドが徘徊していた。

 元々は城で働く侍女だったのだろう、女の人が髪を振り乱しながら襲い掛かってくる。


「ホーリーレイ」


 アンデッドを浄化しつつ、僕はお城の中を駆け回った。

 だけど迷路みたいになっているお陰で苦労してしまった。


 そしてようやく、辿り着いた。


「……ここだ」


 そこには破壊された堅牢な扉があった。

 その先には地下へと続く階段がある。


 気配を殺して階段を下りていくと地下室があった。


 やっと見つけた。

 都市全域に伸びる魔力の糸が一か所に収束している――


「なるほど、あんたがアンデッドを操ってる死霊術師だね」

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