第37話 愉快な魔物たちの入場だ
『ついに今年も魔物調教師たちの頂点を決める戦いが始まるぞ! 我が魔物都市最大のモンスターバトル――〝キング・テイマー・カップ〟の開幕だぁぁぁぁぁっ!』
「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
雷鳴のような大歓声が轟き、その波動で建物がビリビリと震えた。
会場を埋め尽くす観客たち。
運営の発表によれば、その数は五万人に迫るという。
剣の都市にあった闘技場も大きかったが、ここはその数倍はあるだろう。
魔物が戦うという性質上、フィールドも大きく取られているのだ。
これならベフィが元の姿になっても、ぎりぎり収まりそうだ。
ほぼその身体だけでフィールドが埋まってしまうだろうが。
魔物都市最大のモンスターバトルだというこのキング・テイマー・カップには、S級ギルドに所属している調教師しか出場することができないという。
そのS級ギルドは全部で七つあるのだが、そこから各々代表者を二名もしくは三名を出場させ、合計十六人でトーナメントを戦う。
そして最後まで勝ち上がれば、前年度の覇者、すなわち〝キングテイマー〟との対戦権が与えられるのだとか。
『さあ、お待ちかねの第一試合だ! まずはS級ギルド〝ケモナーズ〟所属! 《獣魔調教師》のギックリャー調教師とその愉快な魔物たちの入場だ!』
調教師にしては随分と体格のいい男性と、それに付き従う五体の魔物たちがフィールドに入ってくる。
魔物はすべて獣系だ。
『ケルベロスにアーマーグリズリー、それからエンペラーグリフォンと、いずれ劣らぬ強力なモンスター揃い! しかしなんと言っても注目魔物は、伝説級の魔物、ゴールドスレイプニル! その速さは、今大会出場モンスターの中で間違いなく最速だぁぁぁっ!』
紹介されたことが分かったのか、黄金の毛並みのユニコーンが後足で立ち上がると、「ヒヒーン」と気高く鳴いた。
『対するはS級ギルド〝黄泉への誘い〟所属! 《死魔調教師》のテキ調教師とその愉快な――いや、悍ましき魔物たちだぁぁぁっ!』
先ほどの調教師とは対照的に、木の枝のように手足が細い人物が現れた。
長い髪のせいで性別はよく分からない。
引き連れているのは、いずれもアンデッドモンスターだった。
『アンデッドの王と言われるリッチを筆頭に、デュラハン、キンググールとこちらも強力なラインナップ! だが注目すべきはやはり東方のアンデッド、キョンシーの上位種、シオウだ! 大会初登場のため、その能力は完全に未知数っ! 果たしてどんな戦いを見せてくれるのかぁぁぁっ!?』
頭に不思議な帽子を被り、額に長方形の紙を張り付けられた青白い顔の巨漢が、ほとんど予備動作などなく跳躍し、心身の宙返りを決めて着地した。
どうやらあれがシオウらしい。
『それではいよいよ第一試合のゴングだぁぁぁっ!』
ゴオオオオオオオンッ、と銅鑼の音が鳴り響いた。
とまぁ、そんな感じで始まったキング・テイマー・カップだが、さすが魔物調教師の頂点を決める大会だけあって、なかなか白熱の試合が続いた。
第一試合のように近い種類の魔物を揃えている調教師もいれば、まったくバラバラの種族の魔物たちを上手くまとめ上げている調教師もいる。
正面からぶつかっていく脳筋な魔物ばかり集めた調教師もいれば、搦め手を使って相手を翻弄する魔物を好んで使っている調教師もいた。
五体の魔物が同時に戦うため、戦略的な部分も非常に重要なようだ。
それによって単純な戦力をひっくり返すことができる。
戦力で劣っているチームが、見事な作戦と連携によって相手チームを撃破したときには、会場が大いに盛り上がった。
ちなみに調教師への直接攻撃は禁止されており、彼らはフィールド後方に設置された防壁の後ろから指示を飛ばすことになる。
『さあ、あっという間に一回戦も残すところあと二試合だ! 続く第七試合! S級ギルド〝ジャイアンツ〟所属――』
ズンッ、ズンッ、ズンッ、という地響きを立てながら、フィールドへの入場口から幾つもの巨大な影が姿を現した。
人間と同じ二足歩行のシルエット。
しかしその大きさは比較にもならない。
巨人族だ。
観客席とフィールドを隔てる壁は魔物が乗り越えられないよう、十五メートルほどの高さがある。
だがそれがせいぜい彼らの腰ほどしかない。
調教師は一体の肩の上に乗っかっていた。
『《巨人調教師》のバレッサ調教師! 巨人族最大と言われるアトラス種を、何とこの大会のために五体も揃えてきたぁぁぁっ! その高さは三十メートル強! もちろん今大会出場魔物中、間違いなく最大だぁぁぁっ!』
五体の巨人たちに観客が今日一番の盛り上がりをみせている。
『対するはS級ギルド〝モンスターランド〟所属! 《粘魔調教師》のゾット調教師と……え? 直前で選手変更があった? おいおい、それを早く言え。――失礼! どうやら選手の変更があったようだ! 改めて、S級ギルド〝モンスターランド〟所属……って、これ名前しか書いていないぞ? しかも見たことも聞いたことも無いんだが……? ――あ~、ともかく謎の調教師、アレル!』
呼ばれたので俺はフィールドへ出る。
実は俺もギルドから選ばれた代表者の一人なのだ。
「それにしても運が良かったな」
ギルドに所属して即、この大会へ出場しないかとギルドマスターから持ちかけられたのだ。
本当はすでに登録期限が過ぎていたそうなのだが、S級ギルドの権限を駆使して無理やり通したらしい。
五体の巨人たちとフィールドで対峙する。
彼らを見上げながら、
「三十メートルか。大したことないな」
「ん」
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