第34話 あいつらガチやべぇっしょ
火口を目指して、険しい坂道を登っていく。
草木はほとんど生えておらず、ずっとごつごつした岩場だ。
恐らく溶岩流が固まってできたのだろう。
なので歩き難い。
「うえー、これ本当に登ってくの? めんどくさーい」
「ん。疲れる」
リビィとベフィが不満を口にしながらついてくる。
「ベヒモス、負んぶしてよ!」
「いや」
「なんでさ! ボク陸上を歩くの苦手なんだよ!」
「わたしは起きてるのが苦手。ずっと寝てたい」
二人とも神話級の魔物のくせに怠惰だな。
「文句を言わずについてこい。……む、魔物か」
現れたのは二足歩行の蜥蜴の魔物、リザードマンだ。
この火山での棲息に適応したのか、赤い鱗は通常種よりも丈夫で熱に強そうだ。
「ギャアッ!?」
一閃で首を刎ねてやったが。
どうやらここは彼らの一大繁殖地になっているらしい。
その後も大量のリザードマンに襲われた。
しかし悉く返り討ちにしていると、やがて恐れをなしたのか、近づくと一目散に逃げていくようになった。
その代わりとばかりに、今度はもっと大きな蜥蜴が現れた。
「レッドドラゴンか」
「オオオオオオオオッ!」
雄叫びを上げながら滑空してくるのはレッドドラゴンだ。
恐らくその全長は二十メートル以上あるだろう。
一番外側にいたベフィがその鋭く太い牙の餌食に――――はならなかった。
「ん?」
「ッ!?」
小さな人間にその牙が通らず、レッドドラゴンは困惑している。
まぁ人間じゃないからな。
「……邪魔」
ベフィは相変わらず眠そうな顔をしながらもちょっと不快げに眉を動かしたかと思うと、蝿でも払うようにレッドドラゴンを手で押し退けた。
ズドオオオオオオンッ!
実際には「押し退ける」なんて生易しいものではなかったが。
「グアアアアアアアアアッ!?」
レッドドラゴンが猛烈な速度で吹っ飛んでいく。
岩場を何度も転がり、ようやく止まったのは百メートル以上も斜面を下った辺りだった。
「「ギエエエッ!?」」
ちょうどその近くの岩陰には、俺たちを監視するためか、秘かに後を付いてきていたリザードマンたちがいた。
隠れていたようだがバレバレだったぞ。
「ギーッ、ギエギエギーッ(やっべー、あいつらガチやべぇっしょ!)」
「ギギギギギギギィッ! ギエギエッ!(レッドドラゴン一撃とかパネェ! あり得ネェ!)」
何を話しているのか俺には分からないが、レッドドラゴンがワンパンで倒されたのでめちゃくちゃ驚いているようだ。
「ギギギィギィギギ! ギギギギギギィギィッ!(こんな危険な役回りガチやべぇっしょ! 命があるうちに逃げちまおうっしょ!)」
「ギギギギギギ!(マジ賛成パネェ!)」
仲間に報告するつもりか、あるいは単に怖くなっただけか、慌てて去っていった。
その後も何度かレッドドラゴンに遭遇したが、何の問題もなく倒して進んでいく。
「……随分と熱くなってきたな」
すでに山の中腹辺りまでは辿り着いただろうか。
普通は標高が高いほど寒くなるはずなのだが、逆にどんどん気温が上がっている。
あちこちで時折噴き出す熱水のせいだ。
間欠泉というやつだな。
まともに被ったら大火傷を負うだろうが、その蒸気だけでも十分に熱い。
俺は青魔法で冷気を生み出し、熱を防ぐことにした。
ふむ、これなら快適だな。
環境はさらに過酷になっていく。
これまではずっと普通に歩ける程度の斜面が続いていたのだが、ほとんど崖と言ってもいいような場所が幾つか続いている。
迂回してもいいのだが、面倒なのでそのまま直進だ。
「緑魔法があるから楽勝だな」
俺は空を飛んだ。
一気に断崖絶壁を乗り越えていく。
「ちょっと待ってよ! ボク、緑魔法なんて使えないんだから!」
「ん、飛べない」
小柄なリビィは崖の凹凸を器用に蹴って追い駆けてきた。
一方のベフィは岩に手の指や足のつま先をめり込ませながら登ってくる。
そうして麓を出発してから、およそ半日。
俺たちはついに火口のある頂上へと辿り着いた。
「うへー、あつ~い!」
「ん」
もうもうと立ち込める高熱の蒸気。
その奥に真っ赤に輝く灼熱のマグマが見え、時折、爆発したように噴き上がっている。
青魔法の冷気を身体に纏わせているというのに、その熱さでさっきから汗が止まらない。
「本当にあんなところを巣にしている奴がいるのか?」
「分かんないよ! ボクも直接見たことあるわけじゃないしね!」
その魔物はあの
「……とりあえず適当に攻撃してみるか」
俺はマグマ目がけて斬撃を飛ばしてみた。
ズバァァァァンッ!
マグマが縦に割れる。
海水よりもずっと粘性が高いため、ゆっくりと元に戻っていった。
「外れか」
まぁ湖のような広さがあるし、そう簡単にはいくまい。
しかし何度も繰り返したが、一向に何かが現れるような気配はなかった。
底が深くて斬撃が届かないのかもしれない。
「おーい、いるなら出てこいよ! わざわざこんなとこまで来てやったんだからさ!」
「ん」
ベフィたちが呼びかけているが、それで姿を見せることもなく。
と、そのときだ。
不意に頭上の太陽光が翳ったので、俺は天を仰ぎ見た。
「いた」
俺が目撃したのは、悠々と空を舞う巨大な鳥。
赤々と煌めく全身は炎に包まれており、翼をはためかせるたびに鱗粉のような火の粉が降ってくる。
「フェニックスだ」
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