第15話 ただの偶然だから
翌日、母さんが帰ってきた。
「どこに行っていたんだ?」
「うふふ、少し遠出してきました」
「?」
笑ってお茶を濁されるだけで、結局、何をしてきたのか教えてもらえなかった。
「それよりアレルちゃん、お帰りなさい。魔法都市はどうでした?」
「とりあえずやりたいことはだいたいやってきた」
「さすがですねぇ」
にこにこと微笑む母さん。
それにしても母さんは相変わらず見た目が変わらないな。
十年前と同じ、若いままだ。
まぁそれを言うなら父さんも十年前と変わらず、ちんちくちんで童顔のままだが。
一方でミラの方は随分と成長している。
俺が魔法都市に出発する前と比べ、身長も五センチ以上は伸びていた。
もう姉さんより背が高いかもしれない。
どうやらミラは母さん似のようだ。
父さんや姉さんに似なくてよかったな。
そんな妹だが、相変わらず一緒にお風呂に入っても「兄様のばか」しか言わないし、一緒に寝ても「兄様のばか」しか言わない。
俺がまた黙って家を出てしまったことを怒っているのもあるだろうが、やはりもう九歳。
そのうち祝福を受ける十歳になるわけだし、そろそろ兄離れの時期なのかもしれない。
兄としては寂しいが、それも致し方のないことだろう。
『だからどう考えても拗ねてるだけデスよ……自分からお風呂に入ってきたり一緒に寝てきたりしている時点で現在進行形のブラコンですから……(ボソッ)』
ならば長居は無用だ。
俺は父さんと母さんに、明日にはまた家を出ることを伝えた。
「次は魔物都市に行ってくる」
「「はい?」」
「今度は魔物調教師になるつもりだ」
実家のある片田舎の街から、魔物都市は随分と遠い。
剣の都市や魔法都市よりもだ。
馬車で移動していたら一か月はかかるだろう。
というわけで、俺はやはり飛行魔法を使うことにした。
一週間ほどで到着した。
大都市だ。
その規模は剣の都市や魔法都市に勝るとも劣らない。
なぜ魔物都市などという物騒な呼び方をされているのにこれほど栄えているのかというと、ここは世界最大級の経済都市でもあるからである。
というか、そうでなければ魔物を飼うなどという湯水のごとくお金を使うようなことができるはずもない。
各地から魔物調教師たちが集まってくるのも、彼らを雇える大富豪たちがいるからだ。
そしてこの都市では、魔物と魔物を戦わせる〝モンスターバトル〟と呼ばれる興行が開催されている。
人間同士の闘技とは比較にもならない迫力した戦闘が見られるということで、世界中から多くの観光客が訪れている。
これが莫大な金を生み、より優れた調教師と魔物が現れ、さらに都市経済が潤うという好循環。
ゆえにこの都市において、魔物は怖れるべき存在というより、自分たちの生活を豊かにしてくれる存在だった。
だから街中を、調教師らしき人物が普通に魔物を引き連れて歩いていたりする。
それを人々は当然のように受け入れている。
もちろん調教済みの魔物なので襲われる心配はないとはいえ、身の丈三メートル近いトロルのすぐ脇を幼い子供たちが追いかけっこしながら通り過ぎていく光景は、なかなかヒヤリとさせられてしまう。
ちなみに一般的に魔物を調教できる職業というのは、
【基本職】
《調教師》:通称アニマルテイマー。動物全般を調教できる職業。一部の温厚な魔物も可能。
【上級職】
《魔物調教師》:通称モンスターテイマー。魔物全般を調教できる職業。
《獣魔調教師》:通称ビーストテイマー。獣形の魔物を調教できる職業。
《粘魔調教師》:通称スライムテイマー。スライム系の魔物を調教できる職業。
《死魔調教師》:通称アンデッドテイマー。アンデッド系の魔物を調教できる職業。
《竜魔調教師》通称ドラゴンテイマー。ドラゴン系の魔物を調教できる職業。
要するに【上級職】の多くは特化型になっているというわけだ。
他にも色んな種類があるらしいが、これくらいにしておこう。
《魔物調教師》は他の【上位職】の上位互換のように見えるかもしれない。
だが確かに色んな種類の魔物を調教できる反面、特化型に比べるとその種類においては調教力が劣るという欠点があった。
魔物調教師として活動するには、最低でも【基本職】である《調教師》でなければならないとされている。
……が、無論、俺は《無職》だ。
魔物を従わせるに必須とされている〈調教〉スキルなど持っていない。
しかしだからと言って、魔物を従わせることができないわけではなかった。
現にマティとプルルは隷属魔法を使うことで、俺の使い魔にしているしな。
「とりあえずどこかのギルドに加入しよう」
魔物都市には、剣の都市と同じようにギルドが存在していた。
〝テイマーズギルド〟と呼ばれており、その多くは都市の大富豪たちが所有しているものだ。
このテイマーズギルドに所属することで、モンスターバトルに出場することができるようになるというわけである。
剣の都市のときは門前払いを喰らいまくった。
だが今回はちゃんと二匹の魔物を所有しているし、きっとそれほど大変ではないだろう。
……と、思っていたのだが、
「あはははははっ! 最弱のスライムとこのちっこい悪魔? ムリムリムリ! こんなの、そこら辺の犬と戦っても負けそうじゃん!」
最初に足を運んだギルドで、職員の女性に大笑いされてしまった。
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