第30話 早ければ早い方がいい
「やあっ!」
「ブヒィァッ!?」
鋭い斬撃をその巨体に浴び、オークが悲鳴を上げる。
「ふぁいあぼーる!」
「プギャァァァァッ!?」
間髪入れずに飛んできた炎に焼かれ、オークは断末魔の叫びとともに絶命した。
「「やったの……?」」
「やったぞ。だから言っただろう? もうオークぐらいなら倒せるってな」
焼け焦げたオークを驚いたように見下ろして息を整える二人の元へと近づきながら、俺は労いの言葉をかけた。
「うん! パパのいったとおりだった!」
こちらを振り返ったのは、天真爛漫な笑顔が可愛い俺の娘――レイラだ。
初めて会ったときの拒絶が嘘のように、今はすっかり俺に懐いていて、俺の足にギュッと抱き着いてくる。
「……ふぅ」
一方レイラのように声を上げて喜んだりはせず、静かに安堵の息を吐いているのは、俺の息子――アークである。
レイラと違って大人びているというか、あまり感情を表には出さない子供だった。
あれから五年が経っていた。
あのとき赤ん坊だった双子はすくすくと元気に成長し、今ではすっかり剣と魔法を使えるようになり、二人がかりだがオークくらいは倒せるようになっている。
歩けるようになってきた一歳ぐらいから、俺が毎日のように剣や魔法を教え、訓練してきた成果だ。
自分の教育が間違っていなかったと、家に帰ってから自信満々でライナに伝えると、
「いやいや、幾ら何でもオークは危険だろう!? 二人は五歳なんだぞ!?」
なぜか怒られてしまった。
「危なげなく倒せたけどな?」
「そういう問題じゃないっ。だいたいまだ祝福を受ける半分の年齢だぞ? 訓練を始めるのは早いだろう?」
一般的に、剣や魔法を幼い頃から学ぶことは珍しい。
大抵は祝福を受け、スキルを習得してからのことだ。
特に魔法に関していえば、そもそも魔法使い系統の職業でなければ使うことができないとされていた。
まぁそれは大きな間違いだったのだが。
俺には持論があった。
「訓練は早ければ早い方がいい」
というものだ。
スキルなしで剣や魔法を習得した経験から、俺はそう確信している。
母さんがいたので、俺も剣だけは幼い頃から少し齧っていたものの、本格的に修行を始めたのは十歳になってからだ。
もしもっと早くからスタートしていれば、きっとより短期間でマスターできていただろう。
「二人がどんな職業を得るのかは分からないが、今の訓練は将来必ず役に立つはずだ」
「そうは言ってもだな……」
ライナは不安そうだ。
それを察してか、レイラが、
「ママ、しんぱいないよ! レイラね、パパと〝くんれん〟するの、すき!」
「レイラがそう言うなら……」
「やった!」
本当にレイラはいい子だ。
よしよしと頭を撫でてやると、嬉しそうに「えへへ」と笑って、
「レイラ、もっとつよくなりたい!」
「よく言った。じゃあ次はワイバーンだな」
「おい!?」
ライナの怒鳴り声が響いた。
その後も俺は二人を鍛えていった。
そしてさらに三年が経った頃。
「ふむ、二人ともよくここまで頑張ったな。今のお前たちは、父さんが同じくらいの年齢だった頃とは比べ物にならないほど強い」
剣に魔法、それに盗賊系のスキルまで、一通り習得させていた。
まだ八歳なので身体能力的には心許ないところもあるが、技術面では二十歳の頃の俺に迫る勢いだ。
「ほんと! やったぁ!」
「……そりゃ、あれだけやればね」
対照的な反応を見せる二人。
レイラは純粋に喜んでいて、アークは疲れたように溜息を吐いている。
普段の訓練でも二人の態度は対照的だった。
レイラはどんなことでも物怖じせず挑んでいくのだが、アークの方は「レイラがやるから仕方なく」といった印象である。
「だが二人にはまだ足りないものがある」
「足りないもの……?」
「それは……?」
神妙な顔つきになる二人に、俺は告げた。
「経験だ」
二人の訓練は常にこの田舎町周辺で行ってきた。
しかし出現する魔物は似たような種類ばかり。
近くにある河や森はもう自分の庭と言えるぐらい慣れてしまっている。
対人戦の経験も乏しい。
もちろん俺を相手にしたり、二人で戦ったり、ベフィたちに相手になってもらったり(人ではないが)したが、どうしても同じ相手とばかり戦っていては、経験も偏ってしまうものだ。
「というわけで、これから実践訓練の旅に出ようと思う」
「旅! やったぁ!」
「おおっ」
レイラが目を輝かせて喜び、いつもは落ち着きのあるアークも嬉しそうな顔になった。
「ダンジョンに行ったり魔境に行ったり、恐らく今まで以上にハードな訓練になるだろう」
「わーい!」
「……うえ」
相変わらず喜ぶレイラに対して、アークは嫌そうに顔を歪めた。
というわけで、善は急げだ。
早速、ライナにもこのことを話して、旅の準備を進めないとな。
◇ ◇ ◇
大陸随一の歴史と伝統を有するパザン聖王国。
その王宮に激震が走ったのは、ちょうどアレルが双子に実践訓練の旅に出ると宣言した頃のことだった。
「陛下! 西方で魔族が確認されたそうです!」
「そうか……。となれば、やはり魔王は復活したということ……」
玉座に腰かけた五十がらみの男が、配下の報告を受けて深々と溜息を吐く。
彼こそがこの国の王、リオクール=パザン=パルメリアだった。
「しかし陛下、我々もこのときに備え、各地から新たな英雄候補たちを集めておりました。彼らならば必ずや魔王を討伐してくれることでしょう」
「うむ、そうだな」
傍に控えていた大臣の言葉に頷いてから、リオクールは告げた。
「よし、すぐに彼らをここに招集するのだ」
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