第46話 んなわけあるか!

「全種類の魔法スキルを上級まで習得する……?」

「そうだ。少なくとも父さんはそうやって《魔導神》になったらしいぞ」


 学院長たちに乞われ、俺は【超級職】になれる可能性のある条件を教えていた。

 あくまでも〝可能性〟なので、実際になれるかは分からないが。


「つまり一種類の魔法だけを幾ら追及したところで、《魔導神》に至ることはできないのか……」

「それでは魔法ごとに学院を分けている今のスタイルでは、根本的に難しいことに……」

「いや、そもそも複数の魔法スキルを上級まで習得しようなど、一体誰が考えるものか……」


 彼らは唖然としている。

 そんな中、赤の学院の学院長が、


「お、おい、もしやお前の父親って……レオンか?」

「父さんのことを知っているのか?」

「知ってるもなにも、オレとは同期だ!」


 どうやら同じ頃に赤の学院にいたらしい。

 確かにこのおっさん、父さんと同じくらいの歳だな。


「あいつのせいで、オレは入学のときからずっと二番目に甘んじてたんだよ! 未来の学院長候補だと周りから持て囃されていたのは、オレじゃなくてあいつだった! なのにあの野郎、セカンドグレードの途中で学院を辞めやがって……!」


 と、そこへ口を挟んできたのは、青の学院の学院長だった。


「レオン? もしかして、あの小柄な……」

「知っているのか?」

「か、彼は私がまだセカンドグレードだった頃に入学してきた後輩です!」


 父さんが魔法都市にいたことは聞いていたが、詳しいことは知らない。

 赤の学院のあと、青の学院に移ったのか。


「将来を嘱望されていたにもかかわらず、セカンドグレードのときに退学して……」

「……もしかして、その後に緑の学院に入学したのではないか?」


 今度は緑の学院の学院長である。


「私がトップグレードの研究生だった頃のことだ。とんでもない生徒がいると、学院中で噂になっていたのをよく覚えている。だが彼はセカンドグレードに上がって、しばらくしたら学院を去り……」

「……つまり、その後に黄の学院にきたのじゃな」


 黄の学院の学院長が引き継ぐ。


「すでに儂は学院長をしておったが、彼の黄魔法を見てすぐ、これはついに儂の後継者が現れたかと思ったものじゃ。しかし、気づけば学院を退学しておった」

「そうして次は白の学院に入ったのですわね……道理で、新入生にしては随分と歳がいっていると思いましたわ。なにせわたくしより年上でしたもの……」


 白の学院の学院長が昔を懐かしむように言う。


 そして父さんは白の学院もセカンドグレードの途中で辞めてしまったという。

 恐らく最後の一つ、黒の学院に入ったのだろう。


「ふむ。父さんもすべての学院に通ったというわけか」


 そうやって全種類の魔法を習得したのだろう。


「「「「「父さん?」」」」」


 学院長たちの声が揃った。


「俺も父さんと同じようにすべての学院に通っているからな」

「「「「「道理でおかしいと思ったよ!!!」」」」」

「というか、知らなかったのか?」

「「「「「知るわけがない!!!」」」」」


 どうやら学院はそれぞれ独立しているため、同じ生徒を共有していたとしても分かるはずがないらしい。


「……まさか複数の学院に同時に通う生徒がいるなど、想定できるはずがないじゃろ」

「そもそも〝順番に〟と〝同時に〟はまるで意味が違いますわ……」

「どこが〝父さんと同じように〟だ……」

「それでいながら入学初年度にセカンドグレードへ飛び級……規格外にも程があります……」

「レオンすらも霞むレベルじゃねぇか……」


 まぁ俺の場合、その父さんから直々に魔法を教わったからな。

 そのお陰もあったと思うぞ。


「それでもすべての上級魔法を使えるようになるまで、三年かかったし」

「「「「「普通は百年かかる!!!」」」」」

「いや、人格分離法を使えばかなり短縮できるぞ」

「「「「「人格分離法って何だ!?」」」」」


 俺は簡単に説明した。


「「「「「お前は本当に人間か!?」」」」」


 失礼だな。

 マティにも言われたが、俺は正真正銘、人間だ。


「そ、そうか。つまり、《魔導神》になればその人格分離法というスキルを習得できるってわけだな? いや、それだと順番がおかしいような……」

「そもそも人格分離法はスキルじゃない。あと、さっきも言いた通り俺は《魔導神》でもない。《無職》だ」

「「「「「んなわけあるか!!!」」」」」


 なぜ信じてくれないのか。






 その後、市長が駆けつけてきたことで、いったん話はお開きになった。


 大会初日は明日以降への延期となり、学院長たちは混乱を治めるため、あるいはあのスライムが出現した原因を突き止めるために、三々五々散っていく。


「それにしてもどこから湧いてきたんだろうな?」

「どっかのアホがよく分からずに呼び出したんじゃないですかねェー」


 何かを召喚するタイプの魔法は、白魔法と黒魔法しかない。

 だが魔界に棲息するスライムを呼び出したとなれば、黒魔法の方だろう。


 もちろん生半可な魔法使いでは、あれだけ強力な魔物を召喚することは不可能だ。


「そういえば黒の学院の学院長がいなかったな? ……む?」


 そのとき俺は小さな塊が、瓦礫から瓦礫へと横切っていくのを見た。

 すぐに後を追いかけると、


 ぷるぷるっ!?


 そこにいたのは拳大サイズのあのスライムだった。


「ふむ。どうやら一部を消滅させそこねたらしいな」


 すぐに逃げようとしたが、俺はさっと腕を伸ばして捕まえる。


「ここまで弱体化しているなら隷属魔法が通じるかもしれない」

「えっ? まさかコイツも使い魔にする気ですか!?」

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