第4話 元カノを忘れないでくださいよぉっ
結婚式の後、うちの庭で盛大な宴会が開かれた。
母さんが腕によりをかけて作った料理がずらりと並び、町中から集まった人たちがわいわいと酒を片手に騒いでいる。
「アレル君は果報者だねぇ。あんな美人を嫁にもらえるなんて」
「それに初心で可愛いし。ふふふっ」
「結婚式ではいいものを見せてもらったなぁ! はっはっは!」
酒の肴はやはり先ほどの結婚式のことのようだ。
「~~~~っ!」
自分のことが話題にされ、ライナが顔を真っ赤にして俯いている。
「いいじゃないか。実際、可愛かったしな」
「ううう、うるさいっ!」
俺が軽くからかうと、ぽかぽかと殴ってきた。
怪力なので、ぽかぽかというか、ドガンドガンッ! という感じだが。
そこへ金髪の女が絡んできた。
「なにイチャイチャしてんですかぁっ! もしかして見せつけてます? 見せつけてますよねぇっ? 二十半ばになってまだ独身街道驀進中のわたしへの挑戦状ですかぁっ!?」
随分と飲んでいるらしく、酒臭い息が鼻を突く。
「ふむ? 誰だったか、この金髪女は? どこかで見たことある気がするが」
「ちょっ? 元カノを忘れないでくださいよぉっ!」
「誰が元カノだ。お前と付き合った覚えはない」
「え?」
「え、じゃないだろ」
相変わらずだな、この金髪女(リリア)は。
どこからか結婚式の噂を聞きつけて、わざわざ剣の都市からやってきたらしい。
呼んでないのにな。
「ていうか、薄情にもほどがありますよっ! 何で呼んでくれなかったんですかっ! ギルドを護るために一緒に戦った仲じゃないですかっ! 戦友といっても過言じゃないでしょう!」
「いや、過言だろ」
「過言じゃありません! それどころか、同じ目標に向かって力を合わせて戦う中、次第に二人は惹かれあい、やがて恋仲に! ああ! けれど運命は非情にも二人を切り裂いてしまったのです……っ!」
いきなりミュージカル風に語りだしたが、すべてねつ造だ。
こいつ、かなり酔っているな。
まぁ酔ってなくてもこんな感じだが。
「おい、飲みすぎだぞ、リリア」
ライナが呆れた様子でリリアから酒瓶を奪った。
リリアはそれを取り返そうとしながら、
「うるさぁいっ! わたしからアレルさんだけじゃなくて、お酒まで奪う気ですかぁっ!」
「はいはい。とりあえず水を飲んで酔いを醒ませ」
「うえええんっ、どうせ勝ち組ライナにわたしのような負け組の気持ちなんて分からないんですよぉっ!」
仕舞いには泣き出す始末だ。
ふむ、そろそろ摘み出してもいい気がするな。
「いやいや、もっと優しくしてくださいよぉっ! 前から思ってましたけど、アレルさんは乙女の扱い方がなってないですぅっ!」
「その女の言う通りなのだぁっ!」
……む。
また面倒なのがやってきたぞ。
姉さんだ。
結婚式から退場させられたはずだが、いつの間にか宴会に参加していたらしい。
すでにだいぶ飲んでいるようで、顔が真っ赤だ。
手にはほぼ空になった酒瓶が握られているが、見た目が完全に子供なので違和感しかない。
「アレルはもっとお姉ちゃんに優しくするべきなのだぁっ!」
「ああっ、あなたが噂に聞くアレルさんのお姉さんっ!? その気持ち、わたしもよく分かりますぅっ!」
「おおっ、誰か知らないけど、理解してくれるのかっ?」
「もちろんですぅっ! ていうか、前々から勝手にシンパシーを感じてたんですよぉっ!」
「心の友なのだぁっ!」
いきなり抱擁する二人。
それから一緒に飲み始めてしまった。
どうやら意気投合したらしい。
似た者同士だしな。
お陰で相手をする必要がなくなって助かった。
「ん? そういえば……」
ふと俺はあることが気になり、周囲を見回す。
しかしどこにも彼女の姿はなかった。
「ミラはどこに行ったんだ?」
どうやら家に戻ってしまったらしく、彼女の部屋の窓を見ると明かりがついていた。
翌日から我が家にライナを迎えて、新婚生活がスタートした。
といっても何年も住み込んでいたので、大して変わっていないのだが。
しかし父さんがこんな提案をしてきた。
「新しく家を建てたらどうだ? うちはそれほど広いわけではない。お前が連れてきた魔物さんたちもいるし……これからさらに増えるかもしれないだろう?」
母さんもそれに賛同した。
「お母さん、早く孫の顔を見てみたいです。最低でも三人……いえ、やっぱり五人は欲しいです。ライナちゃん、頑張ってくださいね?」
「は、はい……」
「あ、もちろん、今の家でも夜は遠慮しないでください。たとえ声が聞こえてきても、お義母さんたちは気にしませんので」
「ななな、何を言っているんだっ!?」
「あらあら、真っ赤になっちゃって、相変わらず初心ですねぇ。……やっぱり夜のことも教えておくべきだったかしら?」
というわけで、新築を建てることになった。
キング・テイマー・カップの優勝賞金はかなり高額で、都会の一等地に家を建ててもお釣りがくるぐらいだ。
田舎ともなれば豪邸が建てられるだろう。
「だがお前たちがいなくなると寂しくなるなぁ……」
いざ決まると、自分から提案してきたくせに、父さんはそんなことを言い出した。
「そうですねぇ」
「でもまだ我が家にはミラがいる……っ!」
そのミラも明後日には祝福の儀式だ。
職業次第ではいつまで家にいるか分からないだろう。
「そんなことはない! ミラは一生――いや、少なくとも父さんが生きている間はこの家にいるはずだ!」
それにしても部屋に籠ってばかりであまり姿を見ないのだが……。
祝福の儀を控えて緊張しているのかもしれないな。
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