第12話 そんなに怖ろしい状態異常があったのか
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよっ!」
会場を出たところで、クーファが追い駆けてきた。
「あっ! 師匠! 探しましたよ!」
さらに進行方向からカイトが姿を見せる。
「一体どういうことよっ? 何であんな強力な青魔法まで使えるのよ!?」
「一体どういうことですかっ!? 他の学院の入学試験も受けるって!」
同時に話しかけられても困る。
まぁ幸い二人の質問には一言で応えられそうだが。
「俺は赤魔法も青魔法も使えるからだ」
カイトが目を剥いた。
「えっ? 師匠、青魔法も使えるんですか!?」
クーファが横から彼を怒鳴りつける。
「使えるなんてものじゃないわ!」
それから彼女は俺の方を向いて、
「ねぇ、あなた絶対、青魔法に集中した方がいいわ!」
「は? 何言ってんだよ!」
声を荒らげたのは、今度はカイトの方だ。
「師匠は赤魔法の世界でトップを取れる方なんだぞ! 青魔法なんかやってる暇はねぇよ! さっきなんて、イラプションでミスリルを溶かしちまったんだからな!」
「それが何だって言うのよ! たった今、アイスエッジの氷刃を四十発も同時に撃って、全部的に直撃させちゃったんだから! しかもミスリルを貫通させるなんて! どう考えても青魔法の方が凄いわ! あなた、見てなかったの!? 残念にもほどがあるわ!」
「見てるわけねぇだろ! 今来たばかりなんだからよ! ていうか、その台詞、師匠の赤魔法を見れなかったお前にそっくりそのまま返してやるよ! 残念なのはそっちだ!」
おい、こんなところで喧嘩をするな。
「赤魔法の使い手なんて、ただ威力を上げればいいって考えるだけの火力馬鹿ばっかでしょ! 戦略的で芸術的な青魔法の方が優れているわ!」
「このっ、赤魔法を馬鹿にすんじゃねぇよ! つーか、殺傷力が低すぎてちまちましたダメージしか与えられないだけのくせに、なにが戦略的だ! 笑わせんな!」
「氷の魔法なら赤魔法なんかより殺傷力あるわよ!」
「発動に時間がかかるからって、滅多に使われねぇ氷魔法を出してくんじゃねぇよ!」
……さらに赤魔法と青魔法の優劣についての言い合いが始まってしまった。
この論争はいつまで経っても終わらないやつだな。
俺は二人を放置し、次の試験会場に向かうことにした。
一番近いところは緑の学院のようだな。
「ん? あれは……」
会場に入ろうとしたところ、校舎の陰で蹲っている人物を発見した。
近づいてみる。
「うぅ……やっぱりわたしには無理ですぅ……。……で、でも……このままだと、わたし一人だけで故郷に帰ることに…………そ、それは嫌ですぅ……」
「何やってんだ?」
「ひゃうっ!?」
後ろから声をかけると、ビクッと肩を跳ねさせてこちらを振り返った。
カイト、クーファと一緒にこの都市にきた少女、コレットだった。
そういえば、緑の学院の試験を受けると言ってたっけ。
「あ、あれ……? あ、アレルさん、どうしてこちらに……?」
「試験を受けにきた」
「へ?」
目を丸くするコレット。
しかしまた一から説明するのも面倒だな。
「そんなことより、こんなところで何をしてるんだ? 試験はどうしたんだ?」
「え、えっと……じ、実はですね……」
聞けば試験を受けるのが怖くなってしまったようで、まだ受付すら済ませていないのだとか。
しかし試験が怖いとは。
受験生が受けることすら躊躇うなんて、緑の学院の入学試験は一体どれだけハードなのか。
赤の学院や青の学院より入学者を厳しく選別しているのだろう。
「わ、わたし、昔から緊張しちゃうとぜんぜんダメになっちゃうタイプで……。あ、アレルさんは、その……き、緊張とかしたときは、どうやって対処されてるんですか……?」
コレットは恐る恐る訊いてくる。
ふむ。緊張、か。
確かに日常的によく使う言葉ではあるが……
「生憎、俺はその緊張とやらをしたことがない」
「ええっ? ないんですかぁっ!?」
そんなに驚くことだろうか?
「考えてみたら、俺はそもそも緊張というのがどういう状態なのか、よく分かっていない気がする」
「そこからですかっ!? ……か、身体が震えたり何も考えられなくなったりする状態なんですけど……」
身体が勝手に震えたり、何も考えられなくなったり?
酷い状態異常じゃないか。
「加護で治らないのか? もしくは白魔法で」
「け、怪我とか病気の類いじゃないので効果ないですよっ……」
なんと。
世の中にはそんなに怖ろしい状態異常があったのか……。
「その緊張という状態異常にはどうやったら陥るんだ?」
「じょ、状態異常……? えっと……その、恐らく、失敗してしまうかもっていう不安が原因かと……」
う~む……?
「一つ訊いていいだろうか?」
「は、はい……?」
「もしかして、お前は今までの人生で一度も失敗したことがないのか?」
「???」
俺の質問が予想外のことだったのか、コレットはきょとんとしてしまった。
いや、驚くのはむしろ俺の方なのだが。
「そうまでして失敗を避けようとしているということは、つまり失敗などしたことがないということだろう?」
実はこの少女、見た目とは裏腹にとんでもない実力を隠し持っているのかもしれない。
「いえいえいえ!? そんなことあるわけないですよ!? むしろ失敗ばかりの人生ですしっ、だからこそ怖いんですっ!」
「……?」
何だろうか?
まるで話が噛み合っていない気がする。
「どういうことだ? 失敗を繰り返しているというなら、なぜそこまで失敗を避けようとする?」
「……え、え、え?」
当惑の表情を浮かべるコレットへ、俺は当たり前のことを口にした。
「失敗など別にどうってことないことくらい、何度も経験していれば分かるはずなのだが……」
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