第17話 夏だ! 海だ! 卵かけ氷だ!

17−1

 8月上旬。夏本番。外はうだるような暑さで、立っているだけでも汗が噴き出してくる。テレビでは連日最高気温を更新したという報道がなされ、炎天下の街で日傘や帽子を装備して歩く人たちの姿を映しては、「暑いです」なんてわかりきったコメントを垂れ流している。そんな情報を伝えられたところで余計に暑さが増すだけで、それならいっそ南極にでも取材に行って、かき氷でも食いながら「寒いです」と言ってもらった方がよっぽどマシなのだが、そういう粋な試みをするテレビ局はないようだ。


 そんなうんざりするある夏の昼下がり、俺、笠原涼太かさはらりょうたは電車のシートに座って揺られながら窓の外を眺めていた。

 車内はクーラーが効いてはいるものの、ドアが開くたびに外からむわりとした熱気が入ってくる。それに窓の外も日陰がほとんどなく、直射日光がコンクリートの地面に照りつける景色は見るからに暑そうだ。いつもならこんなくそ暑い時間にはまず外に出ることはなく、クーラーをガンガンに利かせて家に引きこもっているのだが、今日はそういうわけにはいかなかった。出かける用事があるのだ。


「いやー、今日もあっついねぇ涼ちゃん!」


 隣から声をかけられ俺はそっちを見た。隣の席に座る喜美きみが、容赦なく紫外線を浴びせかける真夏の太陽を眩しそうに眺めている。


「今朝テレビでやってたんだけど、今日また最高気温更新したんだって! 38℃だよ38℃! 体温より高いってすごくない!?」


 気温を口にされて一気にテンションが下がる。せっかくクーラーで涼んでいたのに一気に炎天下に引き戻された気分だった。うんざりした顔でため息をつく。


「……今日が何℃かなんてどうでもいいだろ。そういう余計な情報いらないから」


「でもでも、気にならない!? こんなに暑いんだったら今何℃あるの!? って!」


「別に。何℃だろうが暑いのは暑いし」


「もー、涼ちゃんってば相変わらずクールなんだから。夏でも氷点下って感じ?」


「うるせぇな。俺元々夏嫌いなんだよ。だいたい毎年夏バテするし……」


「そうなんだ。でもそれでよく今日出てこれたね?」


「それは……まぁ、お前が行きたいって言ったから、一応」


「まーたまた強がっちゃって。ホントはあたしを喜ばせてくれようとしたんでしょ? 涼ちゃんって何だかんだ言って優しいよね! いよっ! クールに見せかけてホットな男!」


「……うるせぇな」


 囃し立ててくる喜美から逃れるように窓の外に視線を戻す。誰かに会話を聞かれている様子はなかったが、それでも自分のキャラが崩れるのは気恥ずかしかった。

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