14−6
「卵を混ぜ終わったら具材を炒めるよ! まずは豚肉! フライパンに油を引いて中火で炒めるよ! バラ肉なので油は少な目でオッケー! 焼きすぎると硬くなっちゃうので7、8割くらい色が変わったとこで止めておいてね!
で、お肉が焼けたら今度はキャベツを入れて一緒に炒めるよ! 火加減は強火でさっと炒めることが多いんだけど、今回は甘みを出したいから弱火でじっくり焼くよ! ただし焼きすぎると水っぽくなっちゃうから注意ね!」
肉の入ったフライパンに喜美が大量のキャベツを投入する。最初はキャベツがフライパンからあふれそうになっていたが、炒めているうちに嵩が減ってきて見た目もしんなりしてくる。
「キャベツに火が通ったらお肉を戻して、調味料として和風顆粒だしを投入! 量はお好みだけど、豚肉に下味つけてるから小さじ2分の1くらいかな。全体に混ざるように炒めるよ!」
計った調味料を入れつつ菜箸で肉とキャベツを混ぜる。だしを入れると一気に香ばしい匂いが漂ってきた。
「へーこうして見るととん平焼きって簡単そうだな」昌平が感心した声で言った。
「材料3つで味付けも簡単だし、これなら俺でもできそう」
「うん! とん平焼きは手軽に作れるからいいよ! キャベツがなかったら代わりにもやしとか玉ねぎ使ってもいいし、とにかくアレンジ効くからお勧め!」
「おー、なんか俺も料理したくなってきた! 沙也加ちゃんに作ってあげたら喜んでくれるかな?」
「うん、いいと思う! シンプルだからみんな好きだと思うし!」
「……でもとん平焼きって思いっきり居酒屋メニューじゃね?」俺は口を挟んだ。「女の子に作ってやるんだったらオムレツとか可愛いやつの方がいいと思うんだけど」
「わかってないな―涼太。大事なのはハートなんだよ! 俺が沙也加ちゃんのために真心込めて作ったってことが重要なの! 料理の内容なんか問題じゃねぇんだよ!」
「……はぁ」
「あーでも今日来てよかった! これでお家デートに誘う口実できたし、上手くいけばそのまま……」
妄想を膨らませているらしい昌平がニヤニヤし始める。俺はいい加減相手をするのが面倒になったので放っておくことにした。
「はい! そうこうしている間にお肉とキャベツが焼けました!」喜美が元気よく言った。
「一旦フライパンから取り出して今度はいよいよ卵を焼くよ! フライパンに油を入れて30秒くらい炒めて、それから卵を一気にいれるよ! 火加減は中火か弱火で! 端の方からだんだん固まってくるから固まったところをヘラで混ぜて真ん中に持ってきて、これを繰り返して全体的に半熟になるまで炒めていくよ!」
油を引いたフライパンが温まったところで卵液が一気に投入される。じゅわっと音を立てて卵がだんだん固まっていくのをヘラで混ぜつつさらに焼いていく。そのうち全体に火が通ったらしく見た目がとろとろになってきた。
「はい! 卵が半熟になったところでさっき焼いた具材を上に乗せます! 卵も具材も火は通ってるので後は包むだけ! ヘラで奥から真ん中に一回返して、さらにもう一回返して全体を包むよ!」
左手でフライパンを持ち、フライパンを手前に引くと同時にヘラを返す。それをもう一回繰り返すとオムレツみたいに綺麗に包まれたとん平焼きが登場した。
「あーその包むのすげぇむずそう。俺不器用だしやっぱ無理かも……」昌平が急に自信を失った顔になる。
「フライパン返すのが難しかったら下ろした状態でやってもいいよ! 台にラップ引いてそこに卵乗せて、その上に具材乗せてラップごと包む感じで!」
「お、それなら俺にもできるかも! いやー飯食えるだけじゃなくて料理の勉強もできるってすげぇな!」
「自分で作れた方が楽しいからね! どんどんチャレンジして作ってみて!」
「おうよ! ……っつってもいきなり沙也加ちゃんに食わせるのは勇気いるな。なぁ涼太、お前毒見してくれよ」
「なんで俺が……。つーか毒見ってなんだよ」
「だって俺普段料理しないからさー。とんでもねぇもん作っちまいそうで心配なんだよ」
「人に食わせる前に自分で食えよ。俺を巻き込むな」
「だってほら、腹壊して沙也加ちゃんとデートできなくなったら嫌だし……」
「知るか」
調子のいいことばかり並べ立てる昌平にいい加減うんざりしてくる。彼女候補ができて浮足立っているのはわかるが、あんまり調子乗ってるとそのうち友達なくすぞと言いたくなる。
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