16−4

 その後、俺、小林さん、夏希ちゃんの三人はショッピングモールに行った。日曜日の昼間だけあって店内は人でごった返している。夏希ちゃんははぐれまいと必死なのか、小さな手で俺の手をぎゅっと握ってくる。俺も一応手をつないではいたが、小さな女の子を連れて歩くのは何とも気恥ずかしかった。頼むから知り合いに会いませんようにと念を送る。


 人混みを抜けたところでようやく雑貨屋を見つけたので入った。店内にはリボンやフリルの付いた、いかにも女の子が好きそうなグッズがたくさん並んでいる。


「さすがにいろいろありますね。何選んでいいか全然わかんねぇな……」


 目を細めて店内を見回す。店にいるのはやはり女の子ばかりで、様々なグッズを見比べては迷っている様子だが、俺からすればどれも同じにしか見えない。


「笠原君の彼女の好みはどうなの? 可愛い系? それともシンプル系?」


「そうですね……。どっちかって言うと可愛いものの方が好きだと思います。部屋にもひよこのぬいぐるみとか置いてますし」


「あらそう。じゃあこれなんかどうかしら?」


 そう言って小林さんがグッズの一つを手に取る。そこには小鳥の柄が描かれた水色のポーチがあった。


「ポーチならいくつあっても困らないし、柄も可愛いから気に入ってもらえるんじゃないかしら」


「そうですね。ただあいつ、たぶん黄色の方が好きだと思うんですよね」


「黄色はないみたいね。ピンクはどう?」


「ピンクもあんまりイメージないですね。とりあえず何でも黄色いイメージです」


「確かにあの子にはぴったりかもね。じゃあ黄色で探してみましょうか」


 そうして店内を探すこと数十分、黄色いグッズを片っ端から見てみたのだがいまひとつピンと来るものがなかった。どれも可愛いデザインだということはわかるのだが、何となく喜美のイメージに合わないのだ。


 結局適当なものが見つからずに店を出る。その後も別の店を何軒か回ったのだがやはりしっくり来るものはなかった。


「プレゼント選びって意外と難しいものね。もっとすぐ見つかるかと思ってたんだけど」


 五軒目の店を出たところで小林さんが言った。人混みの中を歩き続けたせいか顔に少し疲れが見える。かくいう俺も慣れない買い物を続けたせいで疲れていた。


「すいません。よくわかりもしないのにいろいろ注文つけちゃって」


「いいのよ、笠原君の彼女のためなんだから。でもあの子も、笠原君がこんな風に一生懸命選んでくれたって知ったら嬉しいでしょうね」


「……まぁ、一年に一回のことですからね」


「それだけじゃないでしょ? 彼女に喜んでもらいたいから頑張ってるんじゃないの?」


「……まぁ、一応」


「ふふ。いいわね、若いって。後で詳しく教えてもらわなくっちゃ」


 微笑む小林さんとは裏腹に俺は内心落ち着かなかった。喜美とのあれやこれやをこの人に追求されたらかわせる気がしない。


「ねーねー、なつきのどかわいたー。ジュースのみたーい」


 夏希ちゃんが俺の手を引っ張りながら言う。さっきから妙に大人しいと思っていたがこの子も疲れていたようだ。


「もう、夏希ったら、今日は遊びに来たんじゃないのよ? 買い物が終わるまでガマンしなさい」


「やだー。なつきジュースのむー」


「いいですよ小林さん、ちょっと休憩しましょう。俺も人多くて疲れましたし」


「そう? でも悪いわね。私が勝手に連れてきちゃったのに」


「いいですよ。えっと、夏希ちゃん、ベンチかどっか座る?」


「んー、なつき、べんちよりあっちがいい!」


 夏希ちゃんが前方を指差したので俺と小林さんはそっちを見た。そこにはあったのはファーストフードのチェーン店で、入口の上に「docmanalds」という店名がデカデカと書かれている。


「ドクマナルド……? 夏希、ハンバーガーが食べたいの?」


「うん。なつきおなかすいたー。ジュースとハンバーガー食べたいー」


「今食べたら晩ご飯が食べられなくなるでしょう? ジュースだけでガマンしなさい」


「やだー。なつきハンバーガーたべるー」


 手足をばたつかせる夏希ちゃんはどうあっても言うことを聞きそうにない。小林さんが困り顔で頬に手を当て、それを見て俺は言った。


「あの、小林さん、ちょっとくらいいいんじゃないですか? まだ買い物終わってませんし、歩いてたらまた腹も減りますよ」


「でも……」


「実は俺もちょっと腹減ってきたんです。だからジュースだけ飲むより店入った方がよくて」


「……本当にいいの? この子に合わせてるんじゃない?」


「そんなことないですよ。自分が食いたいから言ってるだけです」


「……そう。わかったわ。ほら、夏希、ちゃんと笠原君にお礼を言うのよ」


「うん! りょうたくん、ありがとー!」


 満面の笑みを浮かべながら夏希ちゃんが抱きついてくるので俺はまたしてもぎょっとした。小さい子に免疫がないせいで何かされるたびに冷や冷やする。

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