第12話 俺も心の殻を割る
12−1
立春から3日後、俺のスマホに
LINEを閉じ、下宿先の部屋に寝っ転がって俺は天井を見上げた。病気で休業した分、俺のシフトを減らすかとそれとなく尋ねてみたが、今のままでいいと断られた。次のシフトは今日の夕方からだ。今は12時を過ぎたところなので、後4時間ほど時間がある。いつもなら適当に時間を潰してから出勤するのだが、今日の俺は朝からずっともやもやしていて、テレビを観たりスマホをいじったりする気にもなれなかった。
『あの子もいずれは自分の口からお前さんに話すだろう。でもそれまでは何も言うな。今までと同じようにあの子に接しろ。それがあの子のためだ』
本田さんはそう言った。でも、あんな話を聞かされた後で今まで通りに接するなんて無理だと思う。会えば絶対に黙っていたことを責めてしまいだ。
でもそんなことをすれば、残り少ない時間を喜美とぎくしゃくして過ごすことになる。そうなることは喜美だって望んでいないだろう。だから黙って何も知らない振りをしているのが一番いい。
そう思いながらも俺はそれを実行する自信がなく、悶々としたまま時間が過ぎるに任せているのだった。
結局何もしないまま夕方を迎え、俺は煮え切らない気持ちでたまご食堂へ向かった。
喜美と会ったらまず何と声をかけるか、頭の中で何度もシュミレーションしてみるが今ひとつ考えがまとまらない。まずは病気が治ったことを祝ってやるべきか。ただ、病気のことを話題に出すと3日前のことを思い出してしまいそうで恥ずかしい。だからあえて触れずに、本当にいつも通りのやり取りをするのがいいかもしれない。あいつがぼけて俺が突っ込む、漫才みたいなやり取り。でも、それをできるのも後2か月なのだと思うと妙に物足りない気持ちになる。
いつもの倍くらいの時間をかけて歩き、開店の15分くらい前にたまご食堂に到着した。なるべく音を立てないようにそっと引き戸を開けたのだが、立てつけが悪いのかやはり引き戸はガラガラと音を立てた。でも厨房から駆けてくる喜美の姿はない。
「あれ……いないのか?」
客席から厨房を覗き込んでみるがやはり喜美の姿はない。どうしたのだろう。風邪がぶり返してまた家で休んでいるのだろうか。それならそれで連絡くらいありそうなものだが、スマホにはあれから通知は来ていなかったはずだ。
まさかもう閉店したとか? 俺は焦って鞄からスマホを取り出すと、喜美からのLINEを確認しようとした。
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