13−10
「では撮りますねー」男性が喜美のスマホを構える。「……んー、ちょっとお二人の間が空いてますねー……。もう少しくっついてもらっていいですか?」
「はい!」喜美が俺に身体を密着させてくる。
「あ、ちょっとくっつきすぎですね。あと一歩分くらい離れてくださーい」
「うう、どうせなら腕も絡ませたかったのに……。 これくらいでいいですか!?」
「あ、はい。いい感じですね。じゃあ行きますよー」シャッター音。「んー……彼氏さんの表情が硬いですねー。もっとにっこり笑ってくださーい」
「ほら、涼ちゃん! 言われてるよ! スマイルスマイル!」
「……これでも精一杯笑ってるんだけど」
そんなやりとりをしつつシャッターが4、5回押される。見せてもらった写真では、俺は一人で撮った時よりもっとぎこちない笑顔で突っ立っていた。一方の喜美はどの写真でも満面の笑みでピースしている。最後の写真なんか両手でピースしていた。
「おー、いい感じですね! さっすがカメラマンさんは違いますね!」喜美が満足そうににっこり笑う。
「カメラマンではないですが……喜んでもらえてよかったです」男性が微笑む。「お二人は今日デートですか?」
「そうなんです! ついこないだ付き合い始めたばっかりで、今日が初デートなんです!」
「それはいいですねぇ。どうせならカメラでお撮りしたかったですが……」
「いいですよそんな! 撮ってもらえただけで十分です! ほら、涼ちゃんからもお礼言って!」
「……ありがとうございます」
「いえいえ。では私はこれで。デート、楽しんでくださいね」
男性がマイカメラを手に去って行く。また桜の撮影に戻るつもりなのだろう。
「へへ、よかった! 綺麗に撮れてて!」喜美がスマホを大事そうに持ちながら笑う。「これ待ち受けにしちゃおっかなぁ」
「止めとけ。人に見られたらどうすんだよ」
「見せたいからするんだよ! どうせなら涼ちゃんもお揃いにしようよ!」
「……絶対やだ」
「なんでー!? 初デートの記念なんだからいいじゃん!」
「……ツーショット待ち受けにするとか冷やかしてくれって言ってるようなもんだろ。自分でネタ提供するとか絶対したくねぇだから」
「ちぇっ、涼ちゃんのけち。いいよ。アルバムに登録しとくから!」
喜美がスマホを操作し、間もなくLINEの通知音が鳴る。男性に撮ってもらった写真が一式アルバムに保存されていた。
「他の写真は後で送るね! 涼ちゃんが撮ったやつも後で登録よろしく!」
「ああ、わかった」
「じゃ、ツーショットも撮ったこしそろそろ行こっか! えーっと、後回ってないとこは……」
園内マップを広げつつ喜美が歩き出す。俺はその後を追いつつアルバムに保存された写真を眺めた。何となく、一人で撮った時よりも喜美がいい笑顔をしてる気がする。特に最後のダブルピースの写真なんて幸せ全開って感じだ。俺とツーショットを撮れたことがよっぽど嬉しかったのだろうか。
(……ロックかけたら、待ち受け登録してやってもいいかな)
内心で独りごちつつ、俺はスマホをズボンのポケットにしまった。
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