13−11

 それからは残りのエリアを回った。桜並木を歩いたり、ベンチに座って休んだり、池にいる鯉に餌をやったりして時間を潰す。ゆっくり見て周りはしたがそれでも時間が経つのは遅く、15時くらいには全部のエリアを見終わってしまった。


「……そろそろ帰るか? もう他に見るとこなさそうだし」


 最後のエリアを一通り歩いたところで喜美に声をかける。このエリアは桜の木も少なく、奥まった場所にあるせいか辺りには俺と喜美しかいなかった。


「あ、うーん。そうだねぇ……。朝から付き合ってもらったし、そろそろ帰ってもいいかもなぁ……」


 そう言いながらも喜美は気が進まなさそうな顔をしている。本当はまだ帰りたくないのかもしれない。


「……何ならこのどっか行ってもいいけど、どうする?」


「んー、いいよ。あんまり長い時間付き合わせても悪いし……」


「今さら遠慮しなくたっていいだろ。喫茶店行ってデザートでも食うか?」


「デザート……」


 喜美がそこで言い淀み、口に手を当てて思案するような顔になる。しばらく考え込んだ後、なぜか少し顔を赤らめて言った。


「うん……。デザートは……ほしい、かも……」


「じゃ、行くか。どっか空いてる店あるかな……」


 この辺にある喫茶店を思い浮かべながら俺は歩き出そうとしたが、そこでシャツの袖を引っ張られた。立ち止まって振り返ると、喜美が俺のシャツの袖を掴んでいる。


「あ、あのね、涼ちゃん……。あたしが言ってるデザートっていうのは、食べ物のことじゃないんだけど……」


「食べ物じゃないデザート? 何だよそれ」


「その……、ほら……、あれだよ……。カップルがデート終わって、別れる時にするやつ……」


「別れる時にするって……ハグとか?」


「う、うん。それもあるけど……、もっとその、直接的っていうか……」


「直接的?」


 さっきからこいつは何を言ってるんだろう。歯切れの悪い言葉の数々に俺は顔をしかめたが、そこで不意に思い出すことがあった。


 あれはそう、広場で昼飯を食っていた時のことだ。弁当をあーんして来ようとした喜美を俺は徹底的に拒否していたのだが、その時に喜美は、箸だと間接キスになるからドキドキが増すとか言っていた。あの時は大して気に留めなかったが、もし、それが喜美の願望から出た言葉だとすれば――。


「……あの、つまり、お前が言ってる直接ってのはその、箸伝いじゃなくてをしたいってことか?」


 ぼかして伝えたものの喜美には伝わったらしい。顔を真っ赤にしてこくりと頷いた。


「……あたしね、今日のデート、すっごく楽しかったんだ」喜美が顔を俯けたまま言った。

「涼ちゃんと一日一緒にいられて、カップルっぽいこともいっぱいできて……あぁ、あたし達ホントに付き合ってるんだって思えた。だからもう十分満足してるんだけど……できればその、最後に1個だけ、わがまま聞いてほしいな、なんて……」


 言いながら恥ずかしさが増しているのか、喜美が元から小さい身体をさらに縮こめる。その様子を見ているとこっちまで恥ずかしくなってきた。

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