13−9
「つーかお前自分の写真は?」
「え、あたし? あたしはいいよ! 撮ってる方が楽しいし!」
「さっき思い出残すとか言ってただろ。自分の撮らないでどうすんだよ」
「うーん、でもあたし、自撮りってあんま得意じゃないし……」
「俺が撮ってやるから。ほら、そこ立てよ」
場所を代えて喜美を桜の木の下に立たせる。喜美は最初こそ遠慮していたものの、俺がスマホを出すと乗り気になったらしく、満面の笑みを浮かべてピースサインをしてきた。全く作ったところのない笑顔はさすがだ。
「どうどう、綺麗に撮れた!?」
「……うん。いい感じだと思う。ほら」
スマホを裏返して写真を見せる。薄黄色のカーディガンや白のフレアスカートといった淡い色使いが桜の桃色と調和していて、画面が華やいだものになっている。
「おー、確かにいい感じ! 涼ちゃんってば写真上手いじゃん!」
「いや、たまたまだと思うけど……。写真なんてめったに撮らねぇし」
「じゃあモデルがよかったんだね! さっすが喜美ちゃん! 桜も滴るいい女! これこそインスタに上げたらバズったりして!」
「何だよその自信……」
呆れ顔で息をつくも、実際よく撮れてるとは思った。フォルダに保存されたのを確認し、これでいつでも見れるな……とか思ったのは喜美には内緒だ。
「じゃ、気も済んだとこでそろそろ行くか。もう十分撮ったしな」
「あ、ちょっと待って! 肝心なやつが撮れてないから!」
「肝心なやつ?」
「ツーショットに決まってるでしょ! デートの思い出残さなくてどーすんのさ!?」
「え、でもお前、さっき自撮り苦手だって……」
「そうだけど! ここは頑張らないと! ほら、並んで!」
腕を引っ張られて桜の木の下に戻される。喜美は手をいっぱいに伸ばして俺と自分と桜を画面に収めようとしていたが、手が短いせいか上手くいかない。
「んー……難しいなぁ。ね、涼ちゃん撮ってみてよ!」
「いや無理だって。俺自撮りなんかしたことねぇし」
「いいから一回やってみてよ! 涼ちゃんだってツーショット欲しいでしょ!」
「いや、別にいらねぇけど……」
「そんなこと言わない! ほら、二人の思い出作りのためだと思って!」
せがまれてカメラを持つのを交代するも、俺の撮影も大概下手くそだった。そもそも二人を画面に入れるのが難しいし、入ったとしても今度は肝心の桜が写らない。
「やっぱ無理だって。諦めよう」
「えー、でもぉ……」
「同じ場所で撮ってんだから一緒に来たことはわかるだろ。思い出残したいってんならそれで十分だろ」
「んー、でもツーショットほしいなぁ。なんかいい方法ないかなぁ……」
「あの、よかったらお撮りしましょうか?」
声をかけられて俺と喜美はそっちを見た。一眼レフカメラを持っている三十代くらいの男性が俺達の方を見ている。
「さっきから賑やかだなと思って見ていまして。よければお手伝いしましょうか?」
「え、ホントですか!?」喜美が顔を輝かせる。
「はい。自分で撮るのはなかなか大変だと思いますから」
「わー助かります! っていうかそのカメラすごいですね! もしかしてプロのカメラマンさんですか?」
「いえ違いますよ。カメラはただの趣味です。まぁ、出かけるたびに撮ってはいますから人より得意だとは思いますが」
「それでもすごいですよ! ね、涼ちゃん、撮ってもらおうよ!」
「え、いや、いいですよそんな。時間取らせても悪いですし……」俺はおずおずと拒絶した。
「構いませんよ。一人で撮影するのにも飽きてきたところですから。このカメラでは現像できませんので、お持ちのスマホで撮ることになりますが構いませんか?」
「もちろんオッケーです! ありがとうございます!」
諸手を上げて喜ぶ喜美とは対照的に、俺はため息をつきたくなった。これ以上写真を撮られて変な顔を晒したくないのに、ありがた迷惑ってのはこういうことをいうのかもしれない。
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