13−8
その後、残りの弁当をかっ込んだ俺は、急いで弁当とピクニックシートを片づけてその場から退散した(ちなみに喜美は残りの弁当もあーんしてこようとしたが断固拒否した)。広場を出る際、例の主婦二人が生ぬるい笑顔を向けてきた気がしたが無視した。
少し歩くと桜並木が広がり、再び満開の桜が視界を埋め尽くす。午前中に散々見たにもかかわらず、喜美は何度も足を止めては桜の花に見入っていた。俺からすればどの木も同じだと思うのだが、こいつの目には一本一本が違って見えるのかもしれない。
「あ、そうだ! 写真!」
喜美が思い出したように両手を鳴らし、カゴバッグからスマホを取り出す。例によって色は卵カラーで、黄色い本体が白いカバーで包まれている。
「よく考えたら今日写真一回も撮ってないじゃん! せっかくのお花見なのにもったいない!」
「あぁ……そういやそうだな。俺写真とか撮る習慣ないから忘れてたわ」
「ダメだよ涼ちゃん! 思い出はちゃんと残さないと! よーし、今からいっぱい撮るぞぉ!」
気合いを入れて宣言し、喜美がさっそくパシャパシャとシャッターを切り始める。俺は特に撮る気もしなかったのでぼんやりその様子を眺めていた。
「ほら、涼ちゃん、こっち見て!」
声をかけられて反射的に振り向く。スマホを俺の方に向けた喜美がすかさずシャッターを切った。顔を作る間もなくぱしゃ、という短い音が鳴る。
「よーし、いただきました!」喜美がはしゃいだ声を上げる。「桜をバックに佇む涼ちゃん! 花を背負ったいい男! これはぜひともインスタにアップしないと!」
「止めろ。つーか勝手に撮るんじゃねぇよ」
「いいじゃん! だって涼ちゃん、普通にお願いしても絶対写真なんて撮らせてくれないでしょ?」
「……まぁ、確かにあんま好きじゃないけど。大概変な顔してるし」
「でも今日はばっちり撮れてるよ! ほら!」
喜美がスマホの画面を俺に見せてくる。画面をスクロールすると、カメラを背に突っ立っている俺がパラパラ漫画みたいにちょっとずつ振り向く様子が記録されていた。背景にある桜は綺麗だが肝心の俺はいつもの仏頂面で、とても「ばっちり」とは思えない。
「……どうせならもっとまともな顔したやつ撮れよ。それくらい付き合ってやるから」
「え、いいの!?」
「うん。インスタに上げるのは止めてほしいけど、撮るだけなら」
「わーいやったー! 涼ちゃんてば太鼓腹!」
「それを言うなら太っ腹だろ。太鼓腹じゃただのデブだ」
「デブとか言っちゃダメ! それだけ身体が栄養でいっぱいってことなんだからね!」
「栄養じゃなくて脂肪の間違いじゃねぇの?」
そんなどうでもいい会話をしながら俺と喜美は撮影場所を探した。近くに満開の木があったので、それを背にして俺が一人で立つ。
「じゃあ行くよ涼ちゃん! はい、チーズ!」
カメラを向けられ俺は何とか笑顔を作ろうとしたが、普段写真なんて撮られ慣れてないのでどうしても不自然な感じになってしまう。ぱしゃ、ぱしゃ、と連続でシャッターが切られ、その間に表情をキープしておくのも結構つらい。
「はいオッケー! おー、なかなかいい感じに撮れたんじゃない!?」
喜美が興奮気味に言ってスマホを見せてくる。一応口角は上がっているので笑っていることはわかるが、それでもさっきより少しマシなくらいだ。何で俺はこんなに写真写りが悪いんだろうと見るたびに嫌になる。
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