17−3
そんなわけで一週間が経った今日、俺達は電車に揺られて海水浴場に向かっているのだった。車内には同じ行先に向かっているらしい客も何人かいて、カラフルなプールバッグやら浮き輪やらをもった親子や友達連れが楽しげに会話をしている。
「ところで涼ちゃん、ちゃんと水着持ってきた?」
喜美が話しかけてきたので俺は隣に視線を戻した。今日の喜美はノースリーブのワンピースにサンダル、麦わら帽子という夏スタイルだ。ワンピースは白地に黄色い花柄で、サンダルも同じ白。髪は下ろしたスタイルで、ソバージュの黒髪が胸の辺りまで伸びている。その服装はいつもより数段可愛かったが口に出すのは恥ずかしく、とりあえず聞かれたことにだけ答えることにした。
「うん。まぁ一応。海なんて全然行ってないから買わないといけなかったけど」
「あたしも! 水着買うのも初めてだから迷っちゃったよ。色とかデザインとかすっごいいっぱいあるもんね!」
そういえば海に行くということは、俺だけじゃなく喜美も水着になるってことだ。その姿を想像してちょっと胸が高鳴るも、努めて無表情を装った。
「でもあたし、ちょっと心配だな、海行くの」
「心配? なんで?」
「だってさ、海ってことは水着姿のおねーさんがいっぱいいるってことでしょ? 涼ちゃんが鼻の下伸ばすんじゃないかなーって思って」
「……しねーよ。別に人の水着になんて興味ねぇし」
「ふーん? じゃああたしの水着は?」
「それは……」
「おっ、今想像したね!? あたしの悩殺セクシー水着!」
「……してない」
「うっそだぁ。鼻血出てるよ」
「え、マジ!?」
急いで手の甲を鼻の下に当てる。が、どこからも鼻血なんて出ていなかった。そんな俺を見て喜美がしてやったりという顔をした。
「へっへー、うっそー! 涼ちゃんってばやーっぱりあたしの水着姿想像してたんじゃん! もーエッチなんだから!」
いかにも嬉しそうに身体をくねらせて喜美が俺の肩を叩いてくる。声がデカかったせいで会話が聞こえたのか、向かいに座る女の子二人組が俺達の方を見てくすりと笑った。自分のキャラが崩壊するのを感じて火が出るほど恥ずかしくなる。
「まぁまぁ、楽しみにしてなさいって! 海に行ったら、たーっぷりあたしのセクシーな水着姿を見せてあげるから!」
喜美が胸を張って言ったが、その時にはもう俺は水着なんてどうでもよくなっていた。いい加減こいつを黙らせないとますます赤恥を晒すことになる。暑さとは別の原因の汗が背中から滴り落ちるのを感じ、俺は到着前から泳いだ後のように疲れ切っていた。
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