14−9

 喜美がオムライスを持って戻ってきたのはそれから十分くらい後のことだった。


 その頃には昌平はとん平焼きをほとんど食べ終えていて、ご飯もお代わりして満腹であるにもかかわらず「お、オムライスも美味そうだな!」などと言って物欲しそうな視線を向けてきた。

 でも俺は食レポの恨みがあったので無視して一人でオムライスを食べた。ジューシーな鶏肉、ふんわりと柔らかなチキンライス、とろりとした卵の舌触り、ボリュームではとん平焼きに劣るもののオムライスは十分美味かった。安定の味わいに舌鼓を打っているうちに俺の機嫌もだんだん直っていった。


「いやー食った食った」昌平が満足そうに自分の腹を叩く。

「俺マジでこの店選んでよかったわー。美味いもん食って腹いっぱいになって、おまけにレシピまで覚えられてさ!」


「喜んでもらえてよかった!」喜美がにっこり昌平に笑いかける。

「実はそろそろ新作メニュー考えようかなって思ってたとこなんだよね。こんなに好評だったら正式にメニューとして出してもいいかも!」


「あ、全然ありだと思います! このとん平焼きだったら俺毎日でも食いに来ますよ!」


「えへへー、そう? じゃ、来週くらいから追加しようかな! 値段もまた考えないとね!」


 エプロンの紐を揺らしながら笑う喜美はすごく幸せそうだ。自分の料理で客が喜んでくれたことが本当に嬉しいんだろう。その笑顔を見ていると俺も自分が臍を曲げていたことなんてどうでもよくなってきた。


「じゃ、そろそろお会計する?」


「あ、はい! その前にトイレ借りていいですか?」


「どーぞ! 奥にあるよ!」


 昌平は小走りでトイレへと向かう。やっとうるさいのがいなくなったと思って俺はほっと息をついた。


「にしても今日の昌平君、機嫌よさそうだったねー」喜美が昌平の席に座って話しかけてきた。「とん平焼き食べられるのがよっぽど嬉しかったのかな?」


「っていうか彼女できるかもしれないから浮かれてんだろ。あいつ1年の頃からずっと彼女ほしいほしいって言い続けて今までいなかったから」


「そっか! でも上手くいくといいね! そしたらダブルデートできるし!」


「ダブルデートって……俺らと?」


「そうだよ! あたし一回やってみたかったんだよねー! 普通のデートとはまた違った感じで楽しそうじゃん!」


 早くもその光景を想像しているのか、喜美が楽しげに顔を綻ばせる。でも俺は正直気が進まなかった。俺と喜美がカップルっぽいことしたら昌平は冷やかすに決まっているし、昌平とサヤカちゃんがイチャイチャしてるのを見せつけられるのもウザい。それに何より、俺は喜美と二人だけの方がいい。

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