14−8

「よし、じゃあ食おう!」昌平が張り切って箸を取る。「どっから行こうかなー……。端? それとも真ん中?」


「たい焼きじゃねぇんだからどこだっていいだろ。冷める前にさっさと食え」


「だな! よし、じゃあここは豪快に真ん中から!」


 宣言通り真ん中に箸を入れてとん平焼きを二つに割る。たっぷり詰まった肉とキャベツの断面が遠目からでもはっきり見えた。一口大に切ったところで丸ごと口に放り込む。


「んー! うまい! このジューシーな肉! シャッキシャキのキャベツ! とっろとろの卵! 居酒屋のとん平焼きよりずっとうめーや!」


 昌平がデカい声で実況しながら次々ととん平焼きを掻っ込んでいく。そんな食レポを隣で聞かされると空きっ腹には毒でしかなく、俺の胃袋がもの凄い勢いで暴れ始めた。


「うめー! ……って何だよ涼太、そんなにじっと見て」


「え? 別に見てないけど……」


「いや見てたじゃん! 何かこう、物欲しそうな顔してさ。もしかしてお前もとん平焼き食いたいわけ?」


「いや別に……。俺オムライス食うし……」


「んなこと言って顔に書いてるぞ! 『俺にも食わせてください』って。しょうがねぇなー。俺は優しいからちょっとだけ分けてやるよ!」


「いや、だからいらないって……」


「いいじゃん、食えよ! お前だって喜美さんの新作気になるだろ!」


「それは……まぁそうだけど」


「じゃ、取れよ! あ、でもちょっとだけだからな!」


 昌平がとん平焼きの皿を差し出してくる。実際のところ俺はかなり気になっていたので有難く受け取った。昌平が手をつけていない端の方を少しだけ切り、そのまま口に入れる。


 するとさっき昌平が食レポした通りの味わいが口の中に広がった。肉は程よく柔らかくじゅわっと流れる肉汁がジューシーで、しっかり炒めたキャベツはほんのり甘みがありつつシャキシャキ感を失わず歯にも耳にも心地よい。極めつけは卵で、半熟に仕上げた卵がふんわりと具材と絡み合って口の中で柔らかく溶ける。シンプルな味わいなだけにいくらでも食べられそうで、これなら確かにご飯2杯でも3杯でもいけそうだと思った。


「どうだ、美味いだろ!?」昌平が自分で作ったかのように自慢げに聞いてくる。


「……うん。美味い。即席でこのクオリティ作れるとかやっぱあいつすげぇな」


「だよな! でもこれ以上は分けてやらないからな! これは喜美さんが作ってくれたとん平焼きなんだからな!」


「……わかってるよ」


 そう返事をしながらも俺は正直もっとこのとん平焼きが食いたかった。このボリューム感は一口食べたら病みつきになる。マヨネーズとソースと青のりの組み合わせも食欲をそそってたまらない。

 そういうわけで俺は完全にとん平焼きの気分になっていたが、もっとくれと言うのも気が引けて渋々皿を昌平に返した。黙って食えばいいのに昌平はいちいち「この肉が……」「キャベツが……」と食レポを垂れ流してくる。そのたびに胃袋が刺激されて暴れ出し、俺は腹の虫が鳴りそうになるのを必死に抑えなければならなかった。


(喜美……。頼むから早くオムライス持ってきてくれ)


 でないと胃袋の攻撃でやられて死ぬ。俺は昌平の食レポを耳からシャットアウトしつつ、厨房にいる喜美に必死に念波を送った。

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