16−2
「でもお前がプレゼントとか珍しいよな。もしかして喜美さんの誕生日とか?」
「うん。来週23日だって。俺も最近知ったんだけど」
「へー喜美さん夏生まれか。イメージ合うな!」
「まぁな。あいつはもうちょっと遅い方がよかったって言ってるけど」
「へえ、なんで?」
「あいつしし座なんだけど、いかついから嫌なんだって。あと1か月遅かったら乙女座だったのにって言ってる」
「まー確かにしし座と乙女座じゃだいぶイメージ違うしな。にしても星座気にするとか可愛いな喜美さん!」
確かに自分の星座を気にする時点で充分乙女らしい。俺からしたら喜美のそういうところが可愛くて、だからしし座だろうが乙女座だろうがどっちでもいいのだが、昌平の前では口が裂けても言えない。
「で、そんな乙女な喜美さんの誕生日をお前は祝おうってわけか! やるねー!」
「……うるせぇな。でも何あげていいかわかんないんだよな」
「調理道具とかは? 料理人だったら一番欲しいのはそれじゃね?」
「それも考えたけど、あいつプロだし、道具は自分で選びたいんじゃないかって思って」
「あ、それもそうか。じゃあ女の子が喜ぶようなグッズ?」
「うん。だからいろいろ調べてたんだけど、いまいちピンとこないっつーか……」
「まー女の子が何もらって喜ぶかって確かにムズいよなぁ……。俺らとは感覚違うし」
「そうそう。変なものあげてがっかりさせるのも嫌だしな」
本人に聞くのが手っ取り早いのかもしれないが、どうせならびっくりさせてやりたい。とはいえ喜美の好みがわからず、プレゼント探しは予想以上に難航していた。
「周りに誰か聞ける奴いねぇの? 女の子の知り合いとかさ」
「最初姉ちゃんに聞いたんだけど、忙しいからって相手してくれなかったんだよ」
「へぇ、そうなんだ。仕事?」
「いや、プライベートの方。なんか最近会社の男といい感じらしくて。そいつに会うのに忙しいんだって」
その相手というのは姉ちゃんが前から気になっていた同僚で、最近は時々二人で会っているらしい。いつもは着ないようなお嬢さん風のワンピースを着て、喋り方もおしとやかにしているようだと母さんが言っていた。猫を被ったまま結婚に持ち込もうという算段らしいが、本性を知ったら相手の男がどんな反応をするかと思うと心配でならない。
「そっかー。お前女の友達いないもんなぁ。俺は
「……だからうるせぇって。つーかお前らまだ友達なのか?」
「一応な。まーでもかなり仲いいし、来月くらいには付き合ってたりしてな。あーあー残念だよなぁ涼太、お前にも沙也加ちゃんみたいな子がいりゃあよかったのになぁ……」
思いっきり自慢してくる昌平がとてつもなくウザい。やっぱり相席なんかするんじゃなかったと思っていたら、昌平はさらにめんどくさいことを言った。
「あ、そういやあの子は?
「え……香織?」
「そーそー。香織ちゃんいろんな男と付き合ってるし、たぶんプレゼントもいっぱいもらってるだろ? 参考にさせてもらえよ」
「いや、それはちょっと……」
「何でだよ。つーかお前は香織ちゃんになんかプレゼントしなかったわけ?」
「うん。誕生日もクリスマスも経験しないまま別れたから」
「何だそうなのか。でもいいじゃん。お前ら今は友達なんだし、予定空いてたら一緒に買いに行ってくれんじゃね?」
「……いやダメだろ。元カノと今カノのプレゼント買いに行くってどういう神経だよ」
ため息を吐きつつ痛む頭を押さえる。香織とは一時はいろいろあったが、今はお互い別の相手がいるのでよりを戻すような関係ではない。とはいえ、二人で会ったりしたら喜美が心配するのは必須で、変に疑いを招くようなことはしたくなかった。
「うーん。でも姉ちゃんもダメ、香織ちゃんもダメってなったら他にいなくね?」
「それなんだよなぁ……。一人で買いに行ってもどれ選んでいいかわかんねぇし……」
「周りに女の子いないとこういう時困るよなー。まぁ俺には沙也加ちゃんが……」
「あーもうそれはわかったから。でも本当にどうすっかな……」
髪を掻きむしりつつ頭を捻る。通販で買うのも一つの手ではあるが、ラッピングのことを考えるとやっぱり店で買った方がいい。でもセンスのいいものを選ぶ自信もないし、そんな風に考え続けてさっきから堂々巡りになっているのだった。
「まー難しいよな彼女へのプレゼントってのは。あと周りにいる女って言ったら母親くらいだけど、さすがに親に言うのもなー」
昌平のその言葉を聞いて俺はぴたりと動きを止めた。母親、という単語からある人が連想され、もしかしたらと思いながら口を開く。
「……いや、よく考えたら一人いるかも」
「え、誰々? 俺の知ってる人?」
「うん。確か一回会ったことあるはず」
「えー誰だ? 俺、一回会った女の子は忘れないはずなんだけど」
「……まぁ、『女の子』とは言いにくいかな。俺らよりかなり年上だし」
「年上?」
「うん。つっても気持ちはまだ若いみたいだけどな」
「何だそれ? 若作りしてるってことか?」
「まぁ俺の話はいいだろ。つーかお前勉強するんじゃなかったのか?」
「あ、そうだった……。うう……嫌だなぁテスト……」
一気に落胆した顔になりながら昌平がようやく勉強を始める。やっとうるさいのがなくなったと思いながら俺はスマホを取り出した。LINEを起動し、さっき話題に出た人の名前を探す。最後に連絡を取ったのは四か月くらい前だ。元気にしているだろうか。
俺はトーク画面を開くと、メッセージの打ち込みを始めた。
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