17−12

 そんな調子で延々とフードファイトは続いた。焼きそばの次はイカ焼き、その後にカレーと胃もたれしそうな料理ばかりが続く。俺は必死になって食っていたものの、ハイペースで料理を平らげていくマイケルを見ていてはとても勝てる気がしなかった。


「ヘイ、ガール! 次でラストだ! とっておきのデザートを頼むよ!」


 カレーを食い終わったマイケルがオーダーでもするように片手を上げる。歯を見せて笑ったその表情はムカつくほど爽やかだった。こっちは死ぬ思いしながら食ってるってのに、何でそんな余裕かましてられるんだよ。


「デザート、デザート……。あれ、ないですよ?」喜美がテーブルの前できょとんとした声を上げる。


「そっちじゃないよ! 奥にあるアイス・ボックスの中だ!」


「あっ、はい!」


 アイス・ボックスは日陰に置かれており、喜美はとてとてとそっちに走って行った。冷やしてるってことはアイスか何かだろうか。それかかき氷。どっちでもいいから少量にしてくれと俺は思った。


「はい、おまちどおさま!」


 戻ってきた喜美がマイケルの前にガラスの皿を置く。出てきたのはかき氷のようだったが、上にかかっているシロップがあまり見ないものだった。薄い黄色。バナナ? それかレモンだろうか。


「オー! 待ってたよ! こいつは何を隠そう、『BIG WAVE』ニューメニューだ! その名も『エッグ・シャーベット・アイス』! つまり卵かけ氷だ!」


 卵かけ氷。そんなかき氷初めて聞いた。卵かけご飯の応用ってとこだろうか。卵を氷にかけて美味しいのかどうかわからなかったが、わざわざメニューとして出すからには自信があるんだろう。少し興味をそそられたものの、俺の前にはまだカレーが半分以上残っている。


「残り時間は10分か。時間もあることだし、ゆっくり食べさせてもらうよ!」


 マイケルが嬉しそうに言いながらスプーンで卵かけ氷をそっと掬う。俺はカレーを食いながらその様子を横目で見た。マイケルは優雅とも言えるような動作で卵かけ氷をゆっくりと口に運び、スプーンを口に含むや否やぱっと目を見開いた。


「んー! このスムーズなテクスチャー! マウスの中でメルトするシャーベット! そしてスイートフルなエッグ! た・ま・ご! エクセレント! これぞまさに究極のスイーツ! イッツ・ベリー・ベリー・デリーシャスだ!」


 顔中をとろけさせるようにしながら実況するその姿は本当に美味そうだ。未知の味なので俺も食レポが気になって仕方がない。見物していた子どもが何人か「ママー! あれ食べたい!」「ぼくもー!」と言いながら母親の腕を引っ張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る