12−9
小林さんは俺の前のバイト先で一緒だったパートさんだ。気さくな性格もあって仲良くなり、一緒に飯を食いに行ったこともある。あの時は喜美の告白が本気かどうかわからずに悩んでたっけな、と遠い昔のことのように思い出す。
「小林さんはまだあのコンビニでパート続けてるんですか?」俺はカウンター席に案内しながら尋ねた。
「ええ。笠原君が抜けて人が減っちゃったから、回すのが大変よ」
「……すいません、迷惑かけて」
「あら冗談よ。あれから店長もちょっと変わったみたいで、前ほどうるさく言わなくなったの。おかげで私達もやりやすくなったわ」
「ならよかったです。辞めた後どうなってたか気になってたんで」
「私の方は大丈夫よ。それより笠原君の方はどうなの? 彼女と上手くいってるの?」
「だから彼女じゃないですって。でもまぁ、バイトは楽しくやれてるとは思います」
「それはよかったわ。実際前より元気そうだし、転職して正解だったみたいね」
「ですね。あのまま惰性で続けなくてよかったです」
「後はもう1つの問題だけね。でもまぁ、私が口出しすることじゃないかしら?」
小林さんが意味ありげに言って喜美の方を見る。小林さんが来てからしばらく喜美は入口で呆けていたが、今はヘレン達に呼ばれて注文を取りに行っていた。
「……そうですね。そっちももうすぐ片つくと思います」
「あら本当? 前に話した時から何か進展があったのかしら?」
「はい。いろいろありました。まぁ詳しい話は今度しますんで、とりあえず今は何か注文してください」
「そうねぇ……どれも美味しそうで迷っちゃうわねぇ。笠原君のお勧めは?」
「どれもお勧めですよ。まぁ一番はオムライスですけど」
「そう言うと思ったわ」小林さんが笑った。「じゃ、私もオムライスをお願い。ソースはクリームで」
「わかりました」
注文を終えて厨房に向かうと喜美も同じタイミングで戻ってきた。俺が注文を伝えると喜美は承諾したが、すぐに眉を顰めて尋ねた。
「ね、それより涼ちゃん、さっきのどういうこと? あの女の人を招待したって?」
「あー……それは」
「っていうかこんなに一遍に知ってる人が集まるっておかしいよね? もしかして涼ちゃん何かした?」
「えーっと……その」
どう答えたものかと迷っているとまた引き戸が開いた。黒いスタジャンを着た金髪角刈りの青年が入ってくる。
「ちわっす! 喜美さん! おっ、今日は大繁盛っすね! さすが喜美さんっす!」
「あ、岡君!」喜美が目を丸くした。「どうしたの? いつもは昼間に来るのに」
「いやー、今日は涼太さんから誘われたんっすよ! 喜美さんにドッキリ仕掛けるからこの日のこの時間に店に来いって!」
「ドッキリ?」
「……岡君、それ言っちゃ意味ないだろ」俺はため息をついた。「たまたま予定空いたから来た体にしとけって言ったじゃん」
「あ、そうでしたっけ? すいません、うっかりしてました!」
岡君が両手を身体の横に揃え、ぴしっと腰を折って頭を下げる。その動作と言い、スタジャンの背中に描かれた昇り龍と言い、やっぱりチン○ラにしか見えないなと思う。
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