10−2
「でも気になるわねぇ。涼太の身近な良縁って。誰のことかしら?」母さんが興味津々な顔で口を挟んだ。
「……さぁ、別に関係ないと思うけど。俺の周りに女ほとんどいないし」
「そう? 大学の友達とかでいないの?」
「いない。だからたぶん当たってないよ」
「あ、でも、確かアルバイト先の店長さんが女性だったわよね。その人とかどうなの?」
「いや、どうなのって言われても……」
「そうよ。あんたあの子とどうなったのよ?」姉ちゃんが鋭く尋ねた。「確か年末までに告白の返事するって言ったわよね。ちゃんとしたの?」
「そうそう、私もそれ聞こうと思ってたの。もしお付き合いしてるんだったらきちんとご挨拶しないといけないしね」
母さんが両手を合わせて楽しげに笑う。
「期待してるとこ悪いけど、あいつの告白は断ったから」
「え、断ったの? 何で?」姉ちゃんが目を丸くした。
「やっぱり恋愛対象として見られなかったんだ。友達としてならいいけど、どうしても付き合うとかそういう感じになれなくて……」
「それであの子は納得したの?」
「うん……。絶対責められると思ったんだけど、あっさり納得されたから逆に拍子抜けした」
「本当に? 3か月も待たせたくせに振ったら普通刺したくなると思うけど」
いや、普通刺すまでは行かないと思う。でも姉ちゃんなら本気でやりそうで怖い。
「でも涼太、本当によかったの?」母さんが尋ねた。「喜美さんだったかしら? すごく明るくて感じがいい人なんでしょ? 涼太も話してて楽しそうだったし、上手くいくんじゃないかって美香から聞いたけど」
「……まぁ、楽しかったことは否定しない。でもそれと付き合えるかどうかは別だ」
俺はため息混じりに言った。自分が喜美と一緒にいることを楽しんでいたことに気づいたのはつい最近のことだ。告白の返事を引き延ばしていたのも、振ってしまえば喜美と気まずくなって関係がなくなると思ったからだ。
その辺りの事情も含めて俺は正直に打ち明けたが、喜美は俺の身勝手さを少しも責めず、むしろ友達でいいから一緒にいたいと言ってくれた。だから俺は今もたまご食堂でバイトを続けていて、喜美とも変わらぬ関係を続けているが、それでも罪悪感が完全に拭えたわけではない。
「そう……。でも残念ね。私、せっかく涼太にもいい人ができたと思ったのに」
「あたしも。喜美さんがあんたの彼女になったらマンツーマンで料理教えてもらえると思ったんだけど……そんなに上手くいかないわよね」
母さんと姉ちゃんが揃ってため息をつく。この2人は完全に俺と喜美が付き合うものと思っていたらしい。きっと俺が中途半端な態度を取っていたからだろう。自分のせいで余計な誤解を植えつけてしまったのだと思うと、またしても気詰まりな感覚がこみ上げてくるのを感じた。
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