16−8

 その後、小林親子の猛攻撃を何とかかわし、俺達はようやく店を出た。


 プレゼントについては、店を出てから2軒目に入った店でミニタオルを見つけたのでそれにすることにした。黄色地に白の水玉模様が喜美らしいと思ったのだ。デートの時に使ってくれるといいな、と思いながらレジに向かう。


 買い物を終えると16時を回っていたので、そのまま帰ることにした。小林さん達は夕食のおかずなどを買ってから帰るらしい。夏希ちゃんは俺と別れるのが嫌なのか、「りょうたくんもいくのー!」とだだをこねるのを小林さんと二人で宥めなければならなかった。


「笠原君、今日はありがとうね。久しぶりに笠原君と会えて楽しかったわ」


 ショッピングモールの入口まで来たところで小林さんが俺に微笑みかける。俺はいろいろな意味で疲れていたものの、一応笑顔らしきものを作って言った。


「俺もです。おかげでプレゼントも買えましたし、ありがとうございました」


「どういたしまして。彼女、喜んでくれるといいわね」


「そうですね。本当は別のプレゼントを渡せるといいんでしょうけど……」


「そうね。でも今回は初めてだし、物だけでもいいと思うわ。その代わり来年は頑張って。ね?」


「……はい」


「それじゃ、またね、笠原君。彼女にもよろしく言っておいて」


 小林さんが手を振りながらエスカレーターの方へ向かう。夏希ちゃんはぴょんぴょん飛び跳ねながら「りょうたくん、またねー!」と腕ごと手を振っていた。すっかり懐かれてしまったらしい。

 俺は自分も手を振り返しながら、小さい子も案外悪くないな、と考えた。






 それから一週間後、俺は夕方からたまご食堂のバイトに行っていた。


 あの後、勉強から逃れる言い訳をなくした俺は、やむなく現実と向き合うことにした。来る日も来る日も一夜漬けに励み、ようやく全てのテストが終わったのが昨日のこと。涙ぐましい努力の結果が実るか否か、それは神と担当教諭のみぞ知る、だ。


 その日は客の入りがよく、俺も喜美も忙しく動き回っていて全然喋る暇がなかった。あっという間に閉店を迎え、今は厨房でそれぞれの後片付けをしている。


「いやー涼ちゃん、今日は忙しかったね!」


 喜美が洗い物をしながら言った。傍には洗い終わった食器が食器入れの中に山積みにされている。


「1日ずっと動きっぱなしで、なんかもう時間忘れちゃうくらいだったよ。こんなに忙しかったのって久しぶりじゃない?」


「そうだな。俺もさすがに疲れた」


「だよね! いっつもこれくらいお客さんいたら安心なんだけどね。あ、でも、それだと涼ちゃんと喋れなくなっちゃうか」


「俺のことなら気にすんなよ。店以外でいくらでも喋れるだろ」


「そうだけどさー。一緒にいるんだったらやっぱり喋りたいじゃん!」


「なら一緒にいる時間の方を増やせばいいだろ。例えば次の休みとか」


「お、いいね! ちょうどどっか行きたいなって思ってたんだ!」


 はしゃいだように喜美が身体を揺らし、エプロンのひもが合わせて揺れる。これくらいの会話なら自然にこなせるようになってきた。

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