13−3
「……とりあえず中入るか? いつまでも入口で喋ってでもしょうがねぇし」
「そうだね! 公園の中ぐるっと歩いて、それからご飯食べよっか!」
「そうだな。飯は持ってきてんだっけ?」
「もっちろん! 喜美ちゃん特製愛情たっぷり弁当! 涼ちゃんのために早起きして作ったんだよ!」
特製弁当と聞いて早くも腹の虫が鳴りそうになる。食堂をやっているだけあって喜美の料理の腕は一流だ。どんな弁当なんだろうと期待が高まるが、露骨に楽しみにするのもキャラじゃないと思ったのでとりあえずポーカーフェイスを保っておく。
「……じゃ、行くか。適当に歩いてたらそのうち腹も減るだろ」
俺はそう言って歩き出そうとしたが、喜美がデカい声で「すとーっぷ!」と叫んだので思わずつんのめりそうになった。
「な……何だようるせぇな。さっさと来いよ」
「来いよ、じゃないよ! もー涼ちゃんってばホンットわかってないんだから!」
「わかってないって、何が?」
「これがデートだってこと! あたしハムスターじゃないんだからね! 涼ちゃんの後ろをとっとこ付いてくわけじゃないんだよ!」
「えっと……つまり?」
「つーまーり、こーゆうこと!」
喜美が苛立ったように叫びながら俺の右手に自分の左手を重ねてくる。急に手のひらを温められて俺はぎょっとして振り解こうとしたが、すんでのところで思い留まった。
「あー……その、要はこの格好のまま並んで歩きたいってことか?」
「あったりまえじゃん! あたし達付き合ってるんだよ! 手ぇくらい繋がないでどーすんのさ!」
「いや、まぁわかるけど……。でも人前でこれするのって恥ずかしくね? アピールしてるみたいで気が引けるっつうか……」
「アピールしてもいいじゃん! 前の時と違って実際付き合ってるんだし!」
「それは……そうなんだけど」
歯切れ悪く言いながら、空いた方の手で頬を掻く。喜美が俺と手を繋いできたのはこれで二度目だ。あの時は周りに人が多く、はぐれないようにするという言い訳が立ったが、今いる公園はそこまで雑踏があるわけでもないので手を繋ぐ口実がない。いや、付き合ってるから口実なんていらないのはわかるんだけど、わかるのと受け入れられるのは話が別だ。
「涼ちゃんってばホンットノリ悪いなぁ……。もしかしてあたしのこと嫌い?」
「いや、そういうんじゃなくて……単に慣れないんだよ。まだ付き合い始めて3週間くらいしか経ってねぇし……」
「ま、それもそっか。じゃ、これからちょっとずつ慣れてってもらうってことで!」
喜美が納得した顔で頷き、俺の手を握ったまま腕を振って歩き出す。つられて俺の腕も上下にぶんぶんと振られ、自分が小学生になったような気分になってくる。
「あのさ……手繋ぐのはいいけど、もうちょっとリアクション小さくしてくんねぇかな」
「え、何で? 腕振った方が楽しくない?」
「……楽しいか知らねぇけど周りの目も考えろよ。ガキの遠足みたいに思われるぞ」
「もー、涼ちゃんってばいちいちカッコつけるんだから。わかったよ。じゃ、代わりにこれで!」
ようやく腕を振るのを止めたかと思いきや今度は喜美が指を絡めてくる。恋人繋ぎってやつだ。指一本一本が俺の手をぎゅっと掴んできて、さっきよりも多くの温もりを伝えてくる。
「……うん。確かにこの方がいいかも。こっちの方が付き合ってる感じがするもんね!」
えへへ、と笑いながら喜美が俺を見上げてくる。手のひらの温かさに加えて眩しいばかりの笑顔を見せられ、俺の中で何かが動いた気がしたが、すぐに思惑にハマるのも癪だったので近くにあった桜を眺めてごまかした。
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